フリーランスが未払いのトラブルにあった時の対応方法と予防策を解説

きちんと仕事をしたのに、クライアントが報酬を支払ってくれない……
フリーランスで働く多くの人が、「報酬の未払いのトラブル」を経験しています。

厚生労働省によると、フリーランスの69.7%が未払いを経験し、さらに未払いをされた人の42.2%が泣き寝入りをしていることがあきらかになりました。

参考:一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書 2020」

未払いのトラブルは、担当者が忘れているケースもあれば、悪質なクライアントによる確信犯の報酬未払いのケースなどさまざまです。

しかし、仕事の正当な対価として報酬が支払われないことは、絶対にあってはならないことです。

この記事では、フリーランスが未払いで泣き寝入りをせずに報酬を支払ってもらう方法と未払いの予防策について解説します。

未払いをされたら、まず正しい現状の把握をする

まず、未払いにあったときにすべきことは、クライアントにいきなり連絡をとる前に、いったん冷静になることです。

なぜなら、自分の勘違いである可能性もゼロではないからです。感情的になりがちですが、冷静になって正しい現状の把握からスタートしましょう。

以下の内容をチェックしてみてください。

  • 本当に口座に入金されていないか
  • やり取りした履歴は残っているか
  • 請求書は送っているか
  • 請求書の支払期限が間違っていないか
  • 契約内容に基づいて、納品しているか

メールなどの履歴は、もし裁判になったとしても証拠となるのでしっかりチェックしましょう。

未払いの状態を確認したら対処をする

さきほどの内容をチェックしてみて「きちんと納品したし、請求書も送った。でも口座に入金されていない」など、未払いの状態であることがほぼ確定した場合は、すみやかに対応しましょう。

メールや電話で担当者に連絡する

まずは担当者にメールを送ってみましょう。
文面は、万が一こちらの不手際があっても問題ないようにしておくといいでしょう。担当者が単に支払いを忘れていた場合はここで解決します。

もし、契約書や発注書がない場合は発行を求めるか、契約に関する回答を求めてみてください。

クライアントの資本金が1,000万円を超えていれば、「下請法」にしたがい契約書や発注書の発行を求めることができます。

相手が電話でのやりとりにこだわる場合は、通話レコーダーなどのアプリを使って録音しておくといいでしょう。通話の履歴だけでは裁判の証拠となりませんが、音声自体は証拠となるからです。

電話をするときは「メールで送らせていただいた内容の件ですが…」と切り出せば問題ないでしょう。

内容証明を送付する

いくら連絡しても連絡がつかなかったり、または連絡がついても相手方に報酬を支払う意思がまったく感じられなかったりする場合は、法的手段も検討せざるをえません。

そのとき、最初のステップとして使えるのが「内容証明」です。内容証明は郵便局から送ることができ、公的な証拠として使えます。

内容証明を送ることで、ノーリアクションの相手に対し「もし報酬が支払われない場合は、法的に手段に訴える」ことを相手方に通知できます。

内容証明には強制力はありませんが、相手方に対してこちらの意思を明確にすることでき、心理的に圧迫する効果があります。

裁判所から支払督促を送ってもらう

さきほどお伝えした内容証明とくらべて、法的な強制力が強いのが「支払督促」です。
裁判所から未払金を支払ってもらうよう通知を送付できます。

ただし気をつけなければいけないのは、支払督促を送る場合、裁判も視野にいれておかなければいけないということです。

相手が異議申し立てをした場合、裁判に自動的に移行し、またその裁判をする場所は、相手方の住所の管轄地の裁判所になります。

相手方の住所と自分の住所が離れていればいるほど、裁判で出廷するたび、手間がかかることを覚えておきましょう。

支払督促を送っても、相手方が通知を無視するケースもあるため、このステージまでくるとまずは弁護士に相談したほうがいいでしょう。

少額訴訟を起こす

未払金が少額(60万円以下)で、相手の氏名や住所がわかる場合は、簡易裁判所で少額裁判を起こすことができます。即日で判決が下されます。

裁判所に納付する手数料は、訴額や当事者の人数によって変わってきますが、未払金が10万円までなら、トータルでも6,000円程度で済むことがあります。

また、高額な弁護士費用がかからないメリットもあります。ただし、注意する点が2つあります。

1つ目は裁判所の場所です。原則的には、被告の住所地を管轄する裁判所になりますが、未払いの訴訟の場合は、原告(あなた)の住所地でも認められることがあります。

交通費をおさえるためにも、裁判所に問い合わせてみましょう。

2つ目は、即相手が和解に応じるケースもあれば、相手方が判決を不服とし異議申し立てをするケースもあるということです。異議申し立てをされた場合、通常裁判になります。

※少額訴訟は、フリーランスにとって現実的な自衛手段の1つなので、以下でも後述します。

弁護士を雇って裁判をする

未払金の回収手段として、もっとも強力なのが裁判です。一般的には弁護士を雇って裁判を起こします。

未払金が回収できる可能性が高いのがメリットですが、未払金の回収額が少ない場合、弁護士への依頼料金の方が高くつく可能性があるのがデメリットです。

未払金の額がそれほど大きくない場合は、金銭的、時間的なコストが高くつくため最終手段としてとらえておいたほうが良さそうです。

まずは、専門弁護士の無料相談などを利用してみましょう。

無料の下請かけこみ寺へ相談する

中小企業庁が、下請けの相談窓口として設置したのが、下請かけこみ寺です。無料で電話・オンライン・対面での相談が可能です。

フリーランスのトラブル相談にも対応しているので、どういう行動をとったらいいか悩んでいる場合はこちらへ相談してみてくださいね。

下請かけこみ寺事業 | 公益財団法人 全国中小企業振興機関協会

フリーランスなら少額訴訟はためす価値があり

上記でご紹介した方法のうち、もし相手の名前や居場所がわかっているのであればためす価値があるのが少額訴訟です。

さきほどお伝えしたように、少額で裁判ができるのにくわえて、実際にSNS上などで、フリーランスが少額訴訟で未払金を支払ってもらった話や、少額訴訟をメールで匂わせただけで、クライアントが支払いに応じたケースも散見されるからです。

またフリーランスとして生き抜いていくためには「トラブルに動じない姿勢」が必要になってきますが、少額訴訟をすることは、そうした毅然とした姿勢を持つことにもつながります。

法的なルールにのっとった上で、毅然とした対応することもぜひ検討してみてください。大まかな流れは、以下のようになります。

  1. 証拠書類や必要書類を集める
  2. 訴状をパソコンなどで作成(簡易裁判所で相談を受けながらの作成も可能)
  3. 管轄の簡易裁判所に証拠種類と訴状を提出
  4. 後日、口頭弁論のため出廷する

なんだか難しそうに感じる少額裁判ですが、訴状の作り方などは簡易裁判所でも相談に乗ってもらえます。

主な費用は、収入印紙代や切手代、管轄の簡易裁判所に行くための交通費などです。収入印紙代は訴額によって異なってきます。

たとえば、訴額が8万円で、簡易裁判所が電車で行ける距離にある場合、約6,000円程度の費用になります。

訴額が8万円のケース

・収入印紙代 1,000円
・切手代  約4,000円
・交通費  約1,000円
__________
・合計   約6,000円

さきほどもお伝えしましたが、管轄の裁判所がどこになるかによって交通費が変わってきますので、裁判所の場所について裁判所に問い合わせてみましょう。

訴状がどんなものかをイメージしたい方は、以下、裁判所のサイトから見本をご参考ください。訴状の無料ダウンロードもできますよ。

参考:貸金請求 | 裁判所

また口頭弁論のとき、こちらの言い分だけでなく、相手の反論の処理もできるように、しっかり準備しておくと安心です。

まずは、無料の窓口などで相談してみてくださいね。

悪質な相手には、税務署を利用しよう

「どうしても払ってくれそうにない。悔しいけど泣き寝入りをするしかないのか」

資金を持っているのにもかかわらず、未払金を踏み倒そうとするクライアントは残念ながら一定数存在します。

しかしだからといって、あなたがそんな悪徳クライアントに、ただの泣き寝入りをする必要はありません。

たとえば、確定申告のとき、クライアントの未払金は「貸倒損失」として帳簿上の仕訳を行う必要がありますが、そのことを相手に伝えてみましょう。

これはいわば、悪徳クライアントにとって「自分の悪事の詳細」がそのまま税務署に伝わってしまうことを意味します。

もし、仮にあなたから踏み倒す形になったとしても、相手方にとっては、税務署に目をつけられることほど、イヤなものはないでしょう。

税務署には「取り立ててみたものの、回収できなかった」合理的な理由が必要となりますので、裁判や取り立ての記録などを必ず残しておきましょう。

要注意のクライアント3つのタイプとは

ここまで、未払いへの対応策について解説してきました。でも、できればそんな悪質なクライアントとは関わりたくないのが一番ですよね。

ここからは、そうした悪質なクライアントを見分ける方法について解説していきます。

見分けられるようになってくれば、あなたの貴重な時間をムダにせずに済むだけでなく、理想のクライアントに囲まれながら仕事をする環境に一歩近づくことができますよ。

では、未払いをしがちな要注意のクライアント3つのタイプについて見ていきましょう。

契約書をかわしたがらない

仕事を受注するとき、口頭での契約ではなく、なるべき契約書を交わすようにしましょう。

なぜなら、トラブル発生時の契約のパターンの45.5%が、口頭での契約によるものだからです。

契約書をかわさないということは、仕事の範囲があいまいになってしまうので、フリーランスにとってはかなりのリスクです。

新規の案件でクライアントが契約書をかわしたがらない場合は、案件を受注しないことも選択肢に入れ慎重に検討しましょう。

意味のない修正依頼がずっと続く

「仕事を受注したのはいいけど、意味のない修正ばかりで、割に合わない…」

クライアントから意味のない修正の依頼がずっと続くようなケースです。最悪の場合、クライアントが意図的に納品させたがっていないことも考えられます。

納品が終了しないと報酬の請求ができませんし、ムダな作業に時間が取られてしまい、あなたの時給はどんどん下がることになります。

もし継続の案件であれば、こういったクライアントとは、これからの契約は見直した方がいいでしょう。

納品後にやたらクレームを入れてくる

さきほどお伝えした意味のない修正依頼と似ていますが、納品後にやたらクレームが来るパターンです。

もちろん、こちらに落ち度がある場合は真摯に対応しなければいけません。ただし、相手の言いがかりに近い内容が続くようであれば、今後の契約を見直したほうがいいでしょう。

未払いを予防するためには

さきほど、クライアントの見分け方についてお伝えしました。ここからは、未払いを予防するための方法について解説していきます。

多くのフリーランスにとって、生活のために仕事をどんどん受注していかなくてはいけません。そして、実際に仕事をしてみて、はじめてわかることも多いでしょう。

しかし、自分のできる範囲内で、最善の行動を取っていくことが大事です。そうすることで、未払いのリスクを最小限におさえられるからです。

では、ここから未払いを予防するための方法について見ていきましょう。

クライアントの情報を調べる

予防策として最も大事なことは「そもそもそんなクライアントとは取引しない」ことです。

そのためには、クライアントの情報はしっかり調べることが重要です。その会社のホームページだけでなく、SNSでも検索してみましょう。また、ユーザーの評価コメントなどがあれば、それらも参考にします。

取引先の資本金が1000万を超えていれば、下請法の対象になるのでチェックしてみましょう。

また、ユーザーの悪い評判が目立つようであれば、取引自体にリスクがあると思ったほうがいいでしょう。

契約書をかわす

上記にてお伝えしましたが、未払いのトラブルに発生したときの「45.5%が、口頭での契約によるものです。

そのため、口頭だけではなく契約書をかわすようにしましょう。

とくに初心者フリーランスの人は、「契約書」ときいて尻込みするかもしれませんが、
契約書をかわすようにしてみてください。

たとえば、クライアントの一方的な都合で「追加の業務が発生しタダ働きをすることになった」といったことを防ぐこともできます。

知り合いから口頭で受注する場合であっても、契約書は何かあったときお互いを守ることができるものなので、それを相手に伝えたうえで、契約書をかわしてみてくださいね。

契約書が手元にない人は、以下のサイトから無料でダウンロードできます。

参考:Web系フリーランスをモンスタークライアントから守る契約書【テンプレートあり】

きちんと請求書を発行する

当たり前のことですが、きちんと請求書を発行することも大事です。

請求書を送付しないかぎり、クライアントがあなたに報酬を振り込むことができないだけでなく、ほとんどの忙しいクライアントにとって、あなたに仕事を依頼したことを忘れている場合もあるからです。

請求書を送ることで、クライアントの「払い忘れ」による未払いを未然に防ぐことができますよ。

請求書に納品した成果物だけでなく、振込先の口座が明記されているか、あらためて確認しましょう。

請求書が手元にない人は、以下のサイトから無料でダウンロードできます。

参考:【個人向け】シンプルな請求書テンプレート12選 | エクセル・PDF無料ダウンロード | ビズルート

締め日と支払い日をチェックする

取引先の締め日と報酬の支払日を管理しておくことも大事です。

管理をしておくことで、報酬が振り込まれなかった場合に、初期対応がしやすくなるからです。

特に、取引先が増えてくると、クライアントの未払いに気づかなくなったりすることもあるので、エクセルやスプレッドシートなどで一元管理しておくと便利です。

フリーランスの保険に入る

報酬の未払いが発生したときに、泣き寝入りをするケースがあります。

その理由の1つとして、裁判の手間と労力、弁護士費用などトータルで考えた場合「それだったらやらないほうがマシ」と現実的な判断をしてしまうことが挙げられます。

そんなフリーランスの悩みに対応した保険商品が、損保ジャパンの「フリーガル」です。

報酬が未払いで、裁判になったとき弁護士費用が無料になります。また、和解の交渉、訴訟の手続きなども実施してくれます。

興味のある人はぜひチェックしてみてくださいね。

参考:「フリーガル」改定のご案内

クラウドソーシングサイトを利用するときの注意点

初心者フリーランスにとって、ランサーズやクラウドワークスといったサイトなら、運営側がいるので安心できるイメージがありますよね。

ですが、こうしたクラウドソーシングサイトを利用するときも注意が必要です。報酬未払いのトラブルも実際に起きているからです。

特に気をつけるべき点を3つほどご紹介します。

運営側が本人確認を行っているかを確認する

運営側がクライアントの本人確認を行っているかを確認しましょう。

本人確認とは、公的な資料を元に住所や氏名など確認するもので、本人確認がとれていれば何か問題がおこったとき、運営側からコンタクトがしやすくなるからです。

フリーランスにとって魅力的な案件があったとしても、本人評価が行われていないのであれば、のちのち問題が発生する可能性があるので、そういう案件は除外したほうがベストです。

仕事を始める時は、かならず仮払いをしてもらう

ランサーズやクラウドワークスで仕事をするときは、かならず「仮払い」をしてもらうようにしましょう。

仮払いをしてもらわない場合、未払いのトラブルが発生しても運営側から対応してもらえないからです。

もしクライアントから仮払いをせずに作業を求められたら、悪質なクライアントの可能性もあるので、「仮払いの入金があるまでは、作業ができない」ことを相手方にきちんと伝えましょう。

運営サービス上以外での直接のやり取りをしない

クラウドソーシングサイトで未払いをされるケースとして、悪質クライアントから「運営サービス上以外での直接取引」を巧妙に持ちかけられて、それに乗っかってしまうパターンがあります。

その手口とは、「高単価・継続案件」など、フリーランスにとって一見魅力的なプロジェクト案件で応募者を集めて、「実は、別のいい仕事がある」と巧みに運営サービス上以外でのやりとりに誘導するという手口です。

運営サービス上以外のやりとりになってしまった場合、トラブルは起きても自己責任になります。もし、未払いのトラブルは起きても、運営が対応してくれることは期待できません。

「高単価・継続案件」はフリーランスにとって大変魅力的ですが、こうした悪質な手口もあるということは覚えておきましょう。

まとめ

フリーランスという働き方が一般的になってきましたが、報酬の支払いを巡ってトラブルも増えてきました。

フリーランスの約7割が未払いを経験し、さらにそのうちの約4割が泣き寝入りを経験しています。

もし未払いにあった場合は、すみやかにメールの履歴などをチェックし、現状をきちんと把握したうえで、以下のような対応をとりましょう。

  • メールや電話で担当者に連絡する
  • 内容証明を送付する
  • 裁判所から支払督促を送ってもらう
  • 少額訴訟を起こす
  • 弁護士を雇って裁判をする
  • 無料の下請かけこみ寺で相談する

契約の段階で、契約書をかわしたがらないクライアントは、たとえ魅力的な案件でも未払いのトラブルに発展する可能性があるので 極力関わらないようにしましょう。

あなたが今後フリーランスとして自立して活動していくのであれば、契約書、請求書、発注書など「契約に関すること」をきちんと管理していくことで未払いの予防ができます。

また、フリーランス向けの保険商品もありますので、そういったものも検討しながらしっかり自己防衛するようにしてくださいね。