記事執筆や動画編集、著作物の作成など、日々、何かしらの創作活動に関わっている方であれば、「知的財産権」という言葉は耳にしたことがあるはずです。
しかし、具体的にどんな制度で、何をしたら罰せられるのかまではイメージがついていない、という方も多いのではないでしょうか。
もしかしたら、意図していないところで、知的財産権を侵害しているかもしれません。
そこで今回は、作り手として最低限押さえておきたい、知的財産権の基本を紹介していきます。よくあるNG行動や、実際に起こった訴訟事例なども交えて、なるべく分かりやすく解説していますので、ぜひご一読ください。
記事を読み終わるころには、知的財産権との関わり方が理解できるはずですよ。
目次
知的財産権は創作者を守る法律
知的財産権は、知的創造活動によって生み出されたものを創作した人の財産として保護するための制度です。知的財産基本法によって守られています。
例えば、ある作家さんが書籍を執筆した場合、その著作物は著作権によって保護されます。別の人物がその内容を盗用し、似た内容の著作物を手掛けたことが明るみになれば、適正な処罰が下されます。
では、なぜこのように創作者を守るための法律が存在するのでしょうか?
仮に、あなたが3年の月日をかけて作った著作物があったとします。ようやくその著作物を世の中に出した矢先、別の人物があなたのアイデアを盗用し、似たような著作物を出して利益を横取りされたとしたらどう感じるでしょうか。
もし知的財産権が無ければ、苦労してコンテンツを生み出した創作者は報われません。そうなれば、誰も知的創造活動をしなくなってしまうでしょう。知的創造活動がストップすれば、世の中を良くするような素晴らしいアイデアが生まれなくなってしまいます。
つまり、アイデアを盗用された創作者だけでなく、最終的には世の中全体にも不利益が生じることになります。そのような事態を防ぐためにも、創作者を守り知的創造活動を促す目的で、知的財産権は重要な役割を果たしています。
これもダメ?知的財産権に関するNG行動
知的財産権の重要性は理解できても、実際にどの程度まで保護されるものなのか、イメージがつかない方も少なくないでしょう。そこでこの章では、身近に存在する知的財産権に関するNG行動を紹介します。
申請なしの楽曲利用
よくあるNG行動として、申請なしの楽曲利用が挙げられます。例えば、最近増えているYouTub動画のBGMとして、有名アーティストの楽曲を使用する場合などです。
この場合、日本の音楽に関する著作権を管理する一般社団法人日本音楽著作権協会(通称:JASRAC)に申請する必要があります。仮に申請せずに音楽を使用した場合、著作権違反として罰せられます。
また、そもそもYouTube上においては、利用許可が下りていない楽曲を使用した動画は公開が停止される仕様になっています。
許可を取らずに他人が撮影・作成した画像を利用
特にWebサイト上に記事をアップする際にやりがちなNG行動が、他人が撮影・作成した画像を無許可で利用するケースです。オリジナルコンテンツは作成した瞬間に創作者に権利が発生するため、使用したければ必ず許諾を取る必要があります。
「このくらいなら良いでしょ。」と高をくくって、後から訴えられるケースは後を絶ちませんので、軽く考えない方が身のためです。
許可を取るのが難しかったり、面倒だったりすれば、著作権フリーの素材を使用するしかありません。
競合会社のデザインを模倣
事業主の立場で気を付けたいのが、デザインの模倣です。Webサイトやロゴ、ノベルティなど、何かしらの創作物を作る際に、競合他社のデザインを参考にすることはよくあることです。
しかし、相手方の著作物をほぼ踏襲した形で創作した場合、著作権違反になる可能性は十分にあります。
有名な事例として、アサヒビールのロゴマークである「Asahi」のデザインを盗用したとして、アサヒビールが米の販売業者を訴えた「ロゴマーク事件」というものがあります。この一件ではアサヒビールの訴えは認められなかったものの、著作権に対する世間の意識を高めた一例です。
知らなかったでは済まされない、知的財産権侵害の実態
うっかり知的財産権を侵害してしまった場合、法律違反として罰則を受けることになります。この章では、実際に起こった知的財産権にまつわる事例を紹介します。
知的財産権に関する代表事例
任天堂と「株式会社マリカー」の訴訟
任天堂株式会社(以下、任天堂)は2017年2月24日、株式会社マリカーに対して、不正競争行為および著作権侵害行為の差止と、損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
マリオなどの格好をして公道を走るゴーカート集団を見たことがある、という方もいるのではないでしょうか。この一件は、公道カートのレンタル会社である株式会社マリカーが、任天堂から訴えられたことで有名です。
任天堂としては、同社が製造販売するレースゲームシリーズ「マリオカート」の略称である「マリカー」という標章を会社名として用いていること、さらに、同ゲームに登場するキャラクターのコスチュームを貸与し、そのコスチュームが写った画像や映像を許諾なしに宣伝・営業に利用するなどしていることに対して、訴えを起こしました。
裁判の結果、任天堂が勝訴し、株式会社マリカーに対して、不正競争行為の差止等及び5,000万円の損害賠償金の支払いを命じる形で幕を下ろすことになりました。
コメダ珈琲店の外装が模倣の被害に
平成28年の事例ですが、コメダ珈琲店(以下、コメダ)の外観を、同業他社であるマサキ珈琲(株式会社ミノスケ)が無断で模倣していたとして、裁判に至りました。
株式会社ミノスケ(以下、ミノスケ)は元々、コメダ珈琲のフランチャイジーとして営業したいことを申し出ていたものの、既に県内の別の会社がフランチャイジーとして営業していたため、コメダは申し出を断りました。
その後、ミノスケは独自で店舗をオープンさせたものの、その外装がコメダに非常に似ていることから、不正競争防止法違反を根拠として、当該店舗外観などの使用の差し止めを求めて提訴しました。
結果、地方裁判所はマサキ珈琲に対して、コメダの外装に酷似したデザインの建物の使用禁止を言い渡す形になりました。
小学館が違法ネタバレサイト運営法人を起訴
株式会社小学館(以下、小学館)は2022年2月3日、マンガ作品のネタバレサイトを運営していた法人及び法人代表男性を著作権法違反の容疑で福岡地検に送致しました。
調べによると、小学館が運営するマンガアプリの作品である「ケンガンオメガ」に記載されたイラストやセリフなどが無断配信され、アフィリエイト収入を得ていたことが分かっています。
違反を犯した法人及び代表らは許されるべきではありませんが、そのネタバレサイトを見ていた消費者側もモラルに欠けていたと言わざるを得ない事例です。
知的財産権を侵害した場合の罰則
万が一、知的財産権を侵害した場合、侵害した者には厳しい罰則が待っています。
例えば、著作権・出版権・著作隣接権の侵害は、10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金(法人の場合、3億円以下の罰金)が科せられます。
いかなる理由があろうと、知的財産権の侵害は許される行為ではありません。
もし自分が被害者になってしまったら
著作権侵害をしないことはもちろんですが、場合によっては、被害者になってしまうケースもあります。仮に被害者になってしまった場合、自分ひとりで問題を解決しようとせず、知的財産権の分野に強い弁護士さんに相談するのが得策です。
専門的な対応が必要になるため、間違っても自力で解決しようと躍起にならない冷静さが必要です。
とは言え、いざそういった状況になってからでは冷静な判断ができないこともあるため、日ごろから頼れる専門家を探しておくと良いでしょう。
覚えておくべき知的財産権の基本
詳細な内容は専門家に任せるとしても、知的財産権に関する最低限の知識は身に着けておくにこしたことはありません。
この章では、知的財産権に関して押さえておきたい基本を紹介します。
知的財産権は全部で11種類
知的財産権は、全部で11種類存在します。一覧にすると以下の通りです。
権利名 | 内容 |
特許権(特許法) | 「発明」を保護 出願から20年(一部25年に延長) |
実用新案権(実用新案法) | 物品の形状等の考案を保護 出願から10年 |
意匠権(意匠法) | 物品、建築物、画像のデザインを保護 出願から25年 |
著作権(著作権法) | 文藝、芸術、美術、音楽、プログラム等の精神的作品を保護 死後70年(法人は公開後70年、映画は公開後70年) |
回路配置利用権 (半導体集積回路の回路配置に関する法律) |
半導体集積回路の回路配置の利用を保護 登録から10年 |
育成者権(種苗法) | 植物の新品種を保護 登録から25年(樹木30年) |
営業秘密(不正競争防止法) | ノウハウや顧客リストの盗用など不正競争行為を規制 |
商標権(商標法) | 商品・サービスに使用するマークを保護 登録から10年(更新あり) |
商号(商法) | 商号を保護 |
商品等表示(不正競争防止法) | 周知・著名な商標等の不正使用を規制 |
地理的表示(GI) (特定農林水産物の名称の保護に関する法律)(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律) |
品質、社会的評価その他の確立した特性が産地と結びついている産品の名称を保護 |
出願しないと権利が認められないものがある
知的財産権の中には、各機関に出願をしなければ権利が認められないものも存在します。具体的には、産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)や回路配置利用権、あるいは育成者権などが該当します。
権利名 | 出願先 |
産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権) | 特許庁 |
回路配置利用権 | 財団法人ソフトウェア情報センター |
育成者権 | 農林水産省 |
逆に、著作権のように創作と同時に権利が発生するものもあるため、自分の創作物がどちらに該当するのかをきちんと理解しておく必要があります。
知的財産権を侵害しないために取るべき行動
例え意図していなかったとしても、うっかり知的財産権を侵害してしまっていたということは十分に起こり得ます。そうならないためにも、以下で紹介する2つの視点は、ぜひ意識してみてください。
事前調査を欠かさない
最も重要なのは、事前調査を欠かさないということです。知的財産権の情報は常に目まぐるしく変化しているため、数日前は登録されていなかったようなものが登録されていたということも十分にあり得ます。
例えば、産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)の登録状況が分かるサイトとして、独立行政法人 工業所有権情報・研修館が管轄している「J-Plat Pat」というものがあります。キーワードや登録番号を入れるだけで、簡単に登録状況を調べられます。
調査を怠り、後から予期しないお金と手間がかかるリスクを考慮すれば、事前調査は欠かせません。
不安な場合は弁理士に相談する
不安な場合は、知的財産権の専門家である弁理士に相談するのがおすすめです。弁理士は、知的財産の専門家として、特許などの権利の出願・登録を行う国家資格保有者です。
知的財産権は法律が複雑に絡むため、知識がない状態で対応するのは危険性が伴います。
多少のお金はかかったとしても、その後のリスクを考慮すれば、決して高い支出とはならないでしょう。むしろ、訴訟に発展した際に弁護士に支払う費用の方がよほど高くなります。
知的財産権について詳しく知るための3つの方法
知的財産権についてより詳しく知りたい場合は、以下のような方法が存在します。
知的財産権制度説明会を利用する
特許庁が開催している説明会で、無料で受講できます。初心者向けと実務者向けがあるため、自身のレベルに合わせてコースを選べます。
知的財産権制度説明会-知的財産権について学べます- | 経済産業省 特許庁
知財総合支援窓口を利用する
独立行政書士法人 工業所有権情報・研修館が運営している支援窓口で、全国に拠点があります。資金的に余裕のない、中堅・中小・ベンチャー企業でも支援が受けられるよう、無料で相談を受け付けています。
知財総合支援窓口 知財ポータル (中小企業を無料で支援します)
産業財産権相談窓口を利用する
独立行政書士法人 工業所有権情報・研修館が運営している相談窓口で、知的財産権の中でも産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)に特化した支援窓口です。対面・電話・文書・FAX・メール・オンラインなど、様々な形式で相談できます。
正しい知識を得て知的創造活動を謳歌しよう
知的財産権は、知的創造活動によって生み出されたものを創作した人の財産として保護するための制度です。基本的には、誰かが創作したものは、利用にあたって必ず許可を取る必要があると覚えておけば間違いありません。
申請なしの楽曲利用や、許可を取らずに他人が撮影・作成した画像を利用するなど、無意識のうちにしていた行動が、実は知的財産権侵害にあたるケースも少なくありません。
数千万円単位での賠償を求められるケースもあるため、念には念を入れて、事前調査や専門家への協力要請なども検討する必要があります。
また、知的財産権についてより理解を深めたい場合は、以下のような無料で活用できる公的機関も存在します。
- 知的財産権制度説明会
- 知財総合支援窓口
- 産業財産権相談窓口
知的財産権は、一見すると法律に守られたお堅いルールのように思えます。しかし、きちんとその仕組みを理解し活用できれば、創作活動を思う存分できる素晴らしい制度です。
ぜひ、これを気に理解を深めて、創作活動を謳歌してください。