固定費と変動費とは?知っておきたい費用の基礎知識を解説

企業を経営する時、会計の知識が必須です。そしてWebマーケティング分野で企業の支援を行うWebコンサルタントにとっても会計の基礎知識は当然に必要とされます。

今回は売上と利益の関係を理解するために重要な、以下のことについて解説します。

  • 固定費、変動費、損益分岐点の意味
  • 固定費と変動費のすべてが削減対象ではない
  • “現場で役に立つ” 固定費や変動費の考え方

この記事を読めば、固定費と変動費に対して、経営を管理するための数字としてとらえるだけでなく、実際のビジネスの現場でより合理的な判断をすることができるようになります。

固定費は売上に関わらず一定してかかる

固定費とは

固定費とは、売上の増減に関わらず一定して発生する費用です。

つまり売上が減っても、無くなってしまっても必ずかかる金額なので、会社としては少なければ少ないほど利益が増えると考えられます。

固定費の例

  • 月額で発生するオフィスの賃借料や光熱費
  • 社員の給与としてかかる人件費
  • 広告宣伝費
  • 固定資産税や保険料
  • 減価償却費など

固定費の削減方法

固定費の削減でわかりやすい方法としては、オフィスの賃料があります。
企業としての見栄えや立地にこだわったオフィスを、ワンランク下のオフィスに移転することで長期的に固定費を削減できる可能性があります。

またオーナーに対して交渉が可能であれば、入居期間を長く想定する代わりに賃料を下げてもらうなどの方法が考えられます。

また通信費や光熱費などは最近各社から新しいプランが出ており、前回選定した時よりお得な企業向けのプランがある可能性があります。
定期的に内容を見直すことで固定費の削減や業務の効率化につながります。

その他、社内では当然のようになっている作業や習慣を見直すことで、固定費の見直しにつながることもあります。

管理業務にツールを導入する
→人件費を削減

ほぼ社内にいない営業部隊のデスクを縮小してフリーアドレス化。
→机など備品のリース代金を削減し、小さなオフィスへの移転が可能になった

社用車を燃費のよい車種に変更した。
→ガソリン代の削減になった

変動費は売上の増減に比例して変動する

変動費とは

変動費は売上の増減に比例して変動する費用のことです。

その商品を開発・生産し、運搬して販売するまでにかかる費用なので、売上が増えれば増えるほど増加していきます。

変動費の例

  • 売上原価
  • 原材料費
  • 販売手数料
  • 消耗品費
  • 運送費
  • 外注費

※固定費と変動費は常に明確に分けられるものではないので一例です。

変動費の削減方法

変動費の削減方法としては、商品の仕入れ先や外注先との価格交渉が考えられます。

また、より安く同等の仕事を受けてくれる先を探すことでも変動費の削減が可能です。

ただし価格を交渉して安くする・取引先を変更するという方法の場合、費用削減の分、今のクオリティより下がってしまう可能性があるので注意が必要です。

その他考えられる方法としては、

何でも紙に印刷する文化を止めて、できるだけデジタルで処理するように変更
→書類のペーパーレス化により消耗品費を削減し業務効率も上がった

製造過程を見直し、不良品の数を減らす
→1個当たりの売上原価や原材料費が抑えられる

品質や価格をそのままにしてパッケージの無駄をなくす
→運送費を削減できる

費用と売上が均衡する損益分岐点

損益分岐点とは

固定費は売上が無くても毎月一定の金額で発生します。
また、変動費は売上に比例して増加していくので、利益を上げようと思ったら、この固定費と変動費以上の売上を上げないとプラスにならないことがわかります。

そんな時、固定費と変動費の数字を元に求められるのが、費用と売上が均衡する点「損益分岐点」なのです。

損益分岐点を境に売上高が低い時は赤字、高い時は黒字になります。
つまり企業が利益を上げて経営を続けるためには損益分岐点を超えた売上を続けて行くことが必要なのです。

計算で利益が出る販売個数がわかる

例えば、ある会社で商品1つを1個5,000円で販売するケースを考えてみます。
固定費が月100万円、変動費が1,000円だとしたら、まず売上から変動費を引きます。

(売上から変動費を引いた金額を限界利益といいます)

売上5,000円-変動費1,000円=4,000円

利益を出すには、この4,000円を積み上げて固定費を支払わないといけないので、

固定費100万円÷4,000円=250

つまり商品が250個売れたとき、固定費+変動費と売上が釣り合い、そこから先の売上で初めて利益が出ることがわかります。

固定費と変動費を減らせば利益が増えるわけではない

ここまで固定費と変動費、損益分岐点について説明してきました。損益分岐点を超えると黒字になることはご理解いただけましたね。

そして、当然のように、こう思われた人もいるかもしれません。

「固定費だけ下げれば、売上はそのままなので、そのまま利益が出る」

しかし、実際のビジネスは、このような単純な世界ではありません。

では、これから「固定費と変動費を減らせば、かならずしも利益が出やすくなるわけではない」ということについてお話していきたいと思います。

2021年、優良企業と言われ続けてきた大塚家具が、経営不振のためヤマダ電機の傘下に入ったことはあなたもご存知かもしれません。

実は「この経営不振の最大の理由は、固定費の支出を減らしたため」だと言われています。

2015年に大塚家具の社長に就任した大場久美子社長は、大胆なコスト削減を行いました。特に顕著だったのが、固定費である “広告宣伝費” です。

2014年の12月期、38億3300万円だった広告宣伝費は、毎年減っていき、2018年12月期には約70%カットの 11億7400万円 まで削減しました。

しかし、その結果は惨憺たるものでした。

2014年12月期の売上は555億円でしたが、2018年12月期には373億円までダウン。2018年12月期には51億円6800万円もの赤字を計上したのです

広告宣伝費は、お客さんを自社の商品を買ってもらったり、アピールしたりするためには欠かせない費用です。そこを大幅に削減してしまったために、売上までも大きく落ち込み、最終的には、ヤマダ電機に自社を売り渡すことになりました。

このように、固定費や変動費の削減を「利益を上げるための即効性のある施策」としてとらえるのは非常に危険です。

個人事業主・フリーランスの固定費・変動費の考え方とは

ここまで企業の話を中心にしてきましたが、ここからは少し視点を変えて、個人事業主やフリーランスの固定費や変動費に対する考えかたついてご説明します。

ご存知のように、事業主やフリーランスにおける固定費や変動費と、企業との1番の違いは、事業用の会計だけでなく、家計という要素が入ってくることです。

たとえば、以下のようなものです。

個人事業主やフリーランスの固定費の例

  • 月額で発生する家賃や住宅ローン
  • 年金や保険料
  • 各種税金
  • 広告宣伝費(広告を出している場合)
  • 減価償却費
  • 習いごとや、受講している講座代
  • 契約しているプロバイダ、携帯料金
  • 仕事で必要なサブスクリプション代など

個人事業主やフリーランスの変動費の例

  • 売上原価
  • 原材料費
  • 販売手数料
  • 消耗品費
  • 運送費
  • 外注費
  • 食費
  • 医療費
  • 交通費など

上記をみても、おわかりいただけるように、仕事の費用だけでなく、住宅ローン・食費といった費用があります。

このように、個人事業主やフリーランスにとっての固定費と変動費は、プライベートと事業用の費用があいまいになりがちです。

ここからは、個人事業主やフリーランスが「どのように固定費や変動費を削減すべきか、またどう管理していくべきか」その方法や考え方について解説していきます。

①一番はじめに検討すべきは、携帯電話の格安SIM

上記にて、企業の通信費の見直しについて説明しましたが、これは個人やフリーランスでも同様です。

特に大手キャリアと呼ばれる通信プランよりも、大幅に削減することができます。格安SIMよばれる、大手キャリア以外のプランであれば、月々で1000円〜2000円前後のプランがたくさんあります。

以前であれば、携帯会社を変更するのに、わざわざ電話番号を変更しなくてはならず、変更に躊躇してしまいがちでしたが、今では必要な手続きをすれば、従来の番号を引きつづき使えます。

毎月1万円払っていた人の支払額が、2000円まで下がったとすれば、年間の支払額は12万円から、2万4000円まで下がるので「約10万円の節約」になります。

削減効果がいかに大きいか、おわかりいただけたのではないでしょうか。ぜひ、やってみてくださいね。

②国民健康保険も削減できる

個人事業主やフリーランスにとって、バカにできない出費が国民健康保険の支払いです。

国民健康保険の徴収額は所得が増えれば増えるほど上がっていき、最大で80万〜100万くらいになってしまうからです。

しかし実は、この国民健康保険も削減できる方法があることをご存知でしょうか。それが、組合の運営する国民健康保険組合です。

たとえばWebデザイナーとして独立する場合、文芸美術国民健康保険組合という団体があります。

参考 文芸美術国民健康保険組合

こちらに加入すると収入にかかわらず「月額で21,100円」となります。年間80万円近く払っていた場合は、55万円近く安くなる計算です。

ただし稼げていない場合は、国民健康保険の方が安くなるので注意が必要です。

こちらの組合による国民健康保険の制度はいろんな職種に存在するので、ぜひ調べてみてくださいね。

③固定費と変動費を「投資対効果」で判断する

次にご紹介するのが、固定費と変動費を削減の対象としてとらえるだけではなく、投資対効果でとらえてみようということです。

自分の仕事の生産性を高めてくれるものを節約していると、仕事のスピードやクオリティは現状維持になりやすく、収入アップにつながらないからです。

また、動きの遅いパソコンを安いからという理由で使い続けているようなフリーランスの人に、仕事を依頼したいと思いませんよね。

このように、仕事にプラスとなりそうな固定費と変動費に関しては、節約志向になりすぎると、収入アップにつながらないので気をつけましょう。

④「経費になるか、ならないか」という視点も大事

成功している個人事業主やフリーランスは、固定費や変動費を投資対効果で考えているとお伝えしました。

じつはこれと同時に「経費になるかならないか」という視点も持っています。

たとえば、敷金は経費にならないことをご存知でしょうか。つまり、税金対策としてまったく意味のない出費です。

さらに、敷金を支払ったからといって自分の仕事のパフォーマンスが上がるわけでもありませんよね、
そうしたものに対しては、交渉する姿勢が大事です。そうした支出に関しては、交渉をしたほうがいいでしょう。

敷金も交渉次第で、支払わなくて済むことがあるので、しっかり交渉するよう心がけてみてくださいね。

個人で独立する場合の固定費・変動費の管理の仕方

では、ここからは個人で独立している人が、実際にどうやって固定費・変動費を管理しているのかについてご説明します。
効率よく管理できれば、思わぬ支出を防ぐことができるのでおすすめです。

エクセルやスプレッドシートなどを使って管理しよう

事業用の帳簿は、会計ソフトなどを使うと便利です。ただし、個人で独立している人にとっては、事業以外の生活費などの出費が気になるところですよね。

そこで便利なのが、エクセルとスプレッドシートなどを使った管理方法です。一番のメリットは視認性に優れているということです。

たとえば、契約しているサービス名や、更新月、料金といった情報をメモしておきます。

とくに、サブスクリプションやインターネット回線の契約は、いつ契約したのか忘れやすいですよね。

とくに、携帯電話やプロバイダ契約は解約しようと思ったら、解約更新月を逃すと、解約事務手数料が発生してしまうことがあるので注意が必要です。

そこで、エクセルやスプレッドシートに、以下のように管理しておくと固定費を把握したり、契約の見直しをしたりするのに便利ですよ。

サブスクリプション契約一覧

アマゾンプライム (20◯◯年◯月更新) ¥4,900
マネーフォワード(20◯◯年◯月更新) ¥5,600

サブスクリプション年間合計       合計 ¥10,500

★A会社のプロバイダ契約 3年契約 契約更新月(20〇〇年◯月)

変動費と固定費をしっかり把握することが重要

社会状況などにより売上に大きな変化があった場合、企業は人件費などの固定費の削減をはかることも多いです。

しかし経費の削減は長期的に見た時に不利益になってしまうこともあります。
固定費や変動費を見直す時には、それぞれが与える影響には注意しなければなりません。

またこの固定費・変動費の考え方は会社単位だけでなく、個別のプロジェクトなどビジネスのさまざまなケースで必要になる考え方です。

固定費と変動費をきちんと把握し、損益分岐点を念頭に置いて計画を進めることで、より収益性を高め効果的なビジネス施策を実行できるようになるでしょう。

また、個人事業主やフリーランスの場合は、固定費と変動費をしっかり管理するうえで、以下のことも覚えておくといいでしょう。

  • 一番はじめに検討すべきは、携帯電話の格安SIM
  • 国民健康保険も削減できる
  • 固定費と変動費を「投資対効果」で判断する
  • 「経費になるか、ならないか」という視点も大事

定期的に「仕事のパフォーマンスが上がったか」という視点で、固定費と変動費を見直してみるのもオススメです。

そうすると、削減するものの対象がハッキリするだけでなく、より収入アップにつながるので、ぜひ日頃から意識してみてくださいね。