会社員は毎月の給与から天引きで「雇用保険」の保険料を支払っています。
雇用保険は一般的には失業保険と呼ばれることも多く、「失業した時にお金がもらえる」と認識している人が多いと思います。
しかし自分たちがどんな条件で保険に入っていて、実際どんな時に給付を受けることができるのか、そのためにはどんな手続きが必要かを知っている人は少ないのではないでしょうか。
今回はそんな実はよく知らない雇用保険について、日ごろから知っておいた方がいい基礎知識を解説します。
雇用保険とは
雇用保険とは、労働者の生活や雇用の安定、失業の予防や就職の促進のために作られた制度です。
一般的には失業した時に給付される「失業保険」が最も身近な存在でしょう。
雇用保険では、雇用安定事業と能力開発事業の雇用保険二事業を行っています。
失業保険は雇用安定事業に含まれますが、雇用保険では失業保険以外にも、さまざまな給付を行い労働者の雇用や生活の安定を図っています。
雇用保険料の料率
会社員は毎月の給与から労働者負担分の雇用保険料を支払っています。
2020年(令和2年度)の雇用保険料率は、一般の事業においては
- 労働者負担が3/1,000
- 事業主負担が6/1,000
合わせて9/1,000となっています。
※事業の種類としては、その他に農林水産・清酒製造の事業、建設の事業という種類があり、事業によって雇用保険料率には差があるのですが、ここでは割愛します。
雇用保険料は、毎月の給与として支払われる金額から社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)、税金(所得税)などを控除する前の、労働者に支払われる全ての給与の金額が対象になります。
例えば300,000円の給与があるのであれば、雇用保険料の労働者の負担は900円、事業主の負担は1,800円となります。
雇用保険の保険料は、労働者負担分と会社負担分を合わせ、会社を通じて納付されています。
雇用保険の主な給付
雇用保険から受けられる給付にはさまざまな種類がありますが、ここでは一般の事業で働く会社員が知っておくべき主な給付を3つ紹介します。
基本手当(失業手当)
基本手当は、失業した時に申請すれば受給できるいわゆる「失業保険」のことです。
基本手当の受給資格
基本手当を受給するには以下の受給資格を満たすことが必要です。
■雇用保険被保険者であった期間が、離職直前の2年間で12ヵ月以上あること。
またその1ヵ月あたりに賃金支払いの基礎となる日が11日以上あること。
直近の2年で12ヵ月以上なので、最新の職場で条件を満たす被保険者期間が1ヵ月しかなくても、その前の職場で11ヵ月以上雇用保険の被保険者であり、基本手当を受けることなく転職した場合は基本手当が受けられます。
■ハローワークでの求職の手続きを行い、働ける能力はあるが失業状態であること
失業保険は失業状態であれば何もしなくても受給できるわけではありません。
「仕事をする能力があり、探す努力をしているのに見つからない」という状態であることが必要です。
その条件の認定のために、失業状態になってからは求職活動の実績をハローワークに定期的に認定してもらう必要があります。
基本手当をもらえる期間は、離職の理由(自己都合か会社都合か)や勤務期間によって変わります。
賃金の50~80%が支給される
雇用保険で受給できる1日当たりの金額は「基本手当日額」といいます。
基本手当日額は原則として離職した日の直前の6ヵ月に毎月決まって支払われた賃金(賞与等は除く)を180で割って算出した金額(賃金日額)のおよそ50から80%です。
またこの計算で出た金額が常にもらえるわけではなく、年齢によって上限金額が設定されています。
すぐに給付が受けられない「給付制限」に注意
また退職の理由によって、支給開始時期に違いがあります。
■自己都合退職の受給期間
自分から退職届を出して退職した、通常の退職の場合には、3ヵ月の「給付制限」があります。
まず、退職して元の会社が作成した離職票をハローワークに提出してから7日間は「待機」として支給対象期間に入りません。
その後3ヵ月も給付制限として支給の対象にならず、その後の失業状態が確認されて初めて給付の対象になります。
この期間中も、月に1回など定期的にハローワークに行って失業状態の認定を受ける必要はあります。
このため、自主退職で基本手当を受け取るには、
- 離職票を出してから7日
- 給付制限の3ヵ月
- その後の期間における失業認定(1ヵ月後など)
を経る必要があり、最短でも4ヵ月以上かかることになります。
この間の社会保険料や住民税の支払いなどを理解しておらず困る人が多いので、自己都合退職の時には数ヵ月分の生活費や社会保険料などをきちんと認識しておきましょう。
■会社都合退職の受給期間
整理解雇など会社都合退職の場合、離職票の提出から7日間の待期が明けたら、受給対象期間が始まります。
最初に失業の認定を受けて、数週間後にまた失業の認定を受ければ、その間の期間が対象期間となります。
そのため給付金が振り込まれるのは約1ヵ月後と、自己都合退職と比較して早くなります。
再就職した時(再就職手当)
再就職をすると、基本手当の受給はできなくなります。
しかし、基本手当の残り日数が受給期間の3分の1以上残っている場合には、残りの日数に応じた再就職手当を受け取れます。
ただし以下の要件を全て満たす必要があります。
2.確実に1年以上勤務すること
3.再就職先が離職前の事業所と異なり、離職前の事業所とのつながり(資金面や人事などに関して)がないこと
4.再就職手当の給付が決定されるまでに離職していないこと
5.求職申込時にすでに内定していた職場での再就職ではないこと
6.3年以内に、再就職手当や常用就職支度手当てを受け取っていないこと
7.雇用保険の被保険者になっていること
8.受給手続きを行ってから、就職したり事業を開始したりするまでの期間が7日間以上あること
9.自己理由での退職等、基本手当に給付制限がある場合は、待機期間1カ月以内の就職については公共職業安定所(ハローワーク)か厚生労働大臣の許可する職業紹介事業者の紹介によること
1と9以外については、通常の転職活動を行って、雇用保険に加入している会社に正社員として転職する際にはほぼ満たされる条件だと思います。
自分の転職が当てはまると思ったらハローワークに相談してみてください。
スキルアップのために訓練を受ける(教育訓練給付)
雇用保険の事業のうち、能力開発事業としては教育訓練給付があります。
この給付を受けるには、失業している必要はありません。会社に勤めながらでも支給を受けることができます。
教育訓練給付には、一般訓練給付金と専門教育訓練給付金がありますが、一般訓練給付金の場合、
- 雇用保険被保険者期間が3年以上ある被保険者(初めて給付を受ける時は1年以上でOK)が、
- 厚生労働大臣の定める講座を終了した時に
教育訓練経費の20%(上限50万円)が給付されます。
対象の講座は、こちらの検索システムで調べることができます。
教育訓練給付制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム
補助されるのは20%なので自分自身の負担も発生しますが、自分の受けたい講座がないかを確認してみるといいでしょう。
いざという時のために基本を理解しておこう
このように雇用保険は万が一今の仕事が続けられなくなった時、さらにスキルアップをしたい時など、非常に役立つ保険です。
特に社会保険系の給付は、誰かが親切に情報を存在を教えてくれるということがないため、申請すればもらえたはずの給付を受け取り損ねるというケースが多くあります。
いざという時に情報を探す手掛かりとするためにも、基本的な考えや情報を理解しておきましょう。