ニーズとウォンツの違いとは?マーケティング担当者は必見

「ニーズ」という言葉は日常生活でもよく耳にする言葉です。
しかしマーケティング用語として使う場合には、若干意味が違うため、キチンとポイントを押さえておきたいものです。

そこで今回はマーケティングでよく使われる「ニーズ」と、似た意味で使われることの多い「ウォンツ」の違いについて、現場での使われ方もふまえて紹介します。

記事を読み終わる頃には、2つの言葉の違いが理解でき、マーケティング活動をより緻密に行えるようになりますよ。

ニーズは目的・ウォンツは手段

「ニーズ」と「ウォンツ」は、いずれも人間の欲を表す言葉です。

ニーズは、理想と現実のギャップを埋めたいと思うことで生じます。例えば、あなたの喉が渇いていれば(現実)、喉を潤したい(理想)と思うのがニーズです。

一方ウォンツは、ニーズを解消する具体的な手段として欲しているものを指します。

つまり、ニーズとウォンツは「目的と手段」の関係にあります。

ニーズ(目的):「渇いた喉を潤したい」
ウォンツ(手段):「だから、水が飲みたい」

いずれも人間の欲に関する言葉ですが、何を欲しているかで使い分けます。

1つのニーズには複数のウォンツが存在する

通常、1つのニーズに対して複数のウォンツが存在します。
例えば、「渇いた喉を潤したい」というニーズに対応するウォンツには、以下のようなものがあります。

さらに「水」だとしても今は、ボルヴィック・いろはす・クリスタルガイザー等々、さまざまなメーカー・ブランドが考えられます。

つまり、1つのニーズに対して万人受けする絶対的なウォンツが存在するわけではありません。むしろ、一人一人の消費者ごとに想起できる手段(ウォンツ)は異なります。

別の例として、「年収を上げたい」というニーズを考えてみると、下記のようなウォンツが考えられます。

押さえておくべき2種類のニーズ

ニーズには、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の2種類が存在します。それぞれ、具体例を用いて説明します。

自覚のある顕在ニーズ

顕在ニーズは、消費者自身が自覚しているニーズです。一例として、下記のようなものが挙げられます。

  • 年に1回は海外に旅行に行きたい
  • 第一志望の〇〇会社に受かりたい
  • 意中の△△さんに振り向いてほしい

消費者としてはニーズ(目的)がハッキリしているため、ウォンツ(手段)に対する欲求が高い状態です。そのため、顕在層の消費者に対しては、比較的ストレートなメッセージを届けることで成約につながりやすくなります。

例えば、Googleの検索エンジンに出てくる広告は、直接購買につながるようなストレートなメッセージが多いです。

自覚のない潜在ニーズ

潜在ニーズは、消費者自身が自覚していないニーズです。以下のような例が挙げられます。

  • 最近、旅行関係の広告をよく目にするようになった
  • 安定した大手企業で働きたいと漠然と思っている
  • このところ、△△さんと話す機会が増えた気がする

消費者は特に意識していないため、ストレート過ぎるコミュニケーションをとると温度差があり引かれてしまう可能性があります。潜在層の消費者には、役立つ情報を定期的に発信して興味喚起したり、イメージを想起させたりする発信が適しています。

代表的なのは、大企業がテレビCMで打ち出しているようなイメージ広告です。

ニーズとウォンツを日々のマーケティング活動に活かす方法

せっかく「ニーズ」と「ウォンツ」の意味を理解しても、実務で活かせなければ意味がありません。この章では、「ニーズ」や「ウォンツ」をどのように実務に落とし込むのかについて、説明していきます。

消費者に響くメッセージを届けられる

マーケティング活動の中で「ニーズ」や「ウォンツ」を意識することで、消費者に響くメッセージを届けることができます。

ニーズが明らかな場合はウォンツを刺激する

既にニーズがあることが確実な場合、消費者のウォンツを意識した施策が有効です。

例えば、あなたがアサヒビールのマーケティング担当だとします。この場合、基本的にはウォンツ寄りのメッセージ(数あるビールの中でアサヒビールを選んでもらうための施策)が中心になります。

なぜなら、「渇いた喉を潤したい」というニーズに対してビールが適していることは、既に多くの消費者に自明のことだからです。今さらビールの良さを打ち出す必要はなく、アサヒビールの良さを全面に打ち出した発信が消費者のウォンツを刺激するはずです。

ニーズが不明な場合は興味を引く施策が有効

消費者のニーズが明確でなかったり、無かったりする場合は、そもそも興味を引く施策が有効です。

例えば、あなたがある屋形船のマーケティングを任されたとします。この時、商品(屋形船)の良さを全面に出しても、恐らく誰も振り向いてくれません。なぜなら、そもそも多くの人には屋形船にあえて乗る理由(ニーズ)が無いからです。

消費者のニーズが無いところに商品の良さを打ち出したところで、単なる押し売りになってしまいます。

今回のケースでは、消費者が持っているニーズと、屋形船に乗ることをそもそもマッチングさせる必要があります。例えば、彼女と特別な時間を過ごしたいけど、ありきたりな場所しか思い浮かばず困っている男性をターゲットに設定します。

その男性に、「いつもと違う特別な空間を」というコンセプトで屋形船デートのイメージを伝えれば、候補に挙がるかもしれません。
なぜなら、「彼女と特別な時間を過ごしたい」というニーズを満たす打ち出しになっているからです。

消費者が今、どのような心理状態にいるのかを徹底的に知ることが重要です。

ウォンツを深掘りし隠れたニーズを見つけ出す

顧客が選択したウォンツを深堀りすることで、隠れたニーズを見つけ出すこともできます。顧客の行動には、意識的か無意識的かに関わらず、必ず何かしらの理由があるからです。

2つ事例を用いて説明します。

顧客の選択を掘り下げることで真のニーズが分かる

コンサルタントのAさんは、前任のBさんから引き継ぎを終えたばかりです。Bさんよりも価値を感じてもらおうと必死で準備をして、月一の打ち合わせでも顧問先の社長相手に積極的に提案をしています。

しかし、3か月ほど経った時に、「担当をBさんに戻してくれないか」と言われてしまいます。ショックで立ち直れないAさんの代わりに上司が事情を聞いてみると、Bさんが選ばれた理由が分かりました。

上司「差し支えなければ、担当を戻したいと仰る理由を聞かせていただけますか?」

社長「私はどちらかと言うと、自分で考えたいタイプなんだ。だから、Bさんみたいに聞き役に徹してくれて、私が自分の頭の中を整理する手伝いをしてくれる人の方がありがたいんだよ。極端に言えば、提案なんて何もいらないんだ」

上司「そういうことでしたか」

その後、Aさんは上司からの報告を聞き対応方法を180度変えたことで、Bさんに担当が戻ることなく済みました。この事例では、Bさんを選ぶという選択(ウォンツ)の裏に隠された、社長の本音(ニーズ)が読み取れます。

顧客が欲しいと言っている商品が最適とは限らない

スポーツ用品店で働くCさんは、ある日、1人の女性から声をかけられます。話によると、息子さんが野球をしていて、肘を痛めないようにサポーターが欲しいというのです。

その時、Cさんはお母さんに質問をしました。

Cさん「サポーターが欲しいということですが、息子さんが肘を痛めている理由は分かりますか?」

お母さん「どうも投げ方に問題があるみたいなんです。体が硬いことも影響してるみたいでして」

Cさん「それでしたら、サポーターを買う前に体の柔軟性をあげてみると良いかもしれません。知り合いに良い整体師がいますから紹介しましょうか?」

その後、Cさんの知り合いに施術をしてもらい、お子さんが肘の痛みで悩むことはなくなりました。息子さんは、以前にも増して野球にのめり込むようになったそうです。もちろん、野球道具はCさんのお店で買っています。

顧客が欲しているウォンツに対して「なぜ、それが欲しいのか?」と深堀りすることで、本質的なニーズを見つけ出せます。

ニーズやウォンツと混同しがちな専門用語

「ニーズ」や「ウォンツ」と合わせてよく使われる言葉として、「シーズ」と「インサイト」があります。この章では、2つのキーワードの意味を解説します。

シーズ

シーズは、商品・サービスを開発するベースになる技術・ノウハウや素材を指します。企業が所有するそれらの材料を起点に商品・サービスを開発することを「シーズ志向」や「シーズ思想」と言います。

ニーズはお客様が起点となっていますが、シーズは企業が保有している材料を起点としています。シーズ志向の代表例が、Apple社が販売しているiPhoneです。

インサイト

インサイトは、消費者の購買行動の根底にある、本人さえ気づいていない動機・本音を意味します。マーケティングにおいては、消費者が「それを言われたら購買せずにはいられない」と思うような、深い動機を指します。

例えば、食器洗い用洗剤のCMで、ばい菌がウヨウヨしている映像が使われることがあります。母親としては、「こんなばい菌まみれの食器で、我が子に食事をさせたくない」という購買せざるを得ない動機をつかれているわけです。

ニーズやウォンツが知りたければ顧客の声に耳を傾けよう

今回紹介した「ニーズ」と「ウォンツ」は、「目的と手段」の関係にあります。

ニーズ=目的「乾いた喉を潤したい」
ウォンツ=手段「だから、水が飲みたい」

そして、1つのニーズには複数のウォンツが存在します。つまり、企業は消費者にとってのウォンツとなるべく、日夜マーケティング活動を行っているわけです。

言い換えれば、ニーズを正確に読み取り、適切なウォンツを用意し、それを届ける活動こそ「マーケティング」と言えます。

最も重要なのは、自社にとっての顧客の声を聞くことですので、頭でっかちにならず素直に耳を傾けてみてください。