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先行者利益とは
先行者利益とは、誰よりも早く新しい市場に参入したり、自分自身で新しい市場を作り出したりすることで、利益を独占し市場における優位な立場を確立することを言います。
先行者利益の他に、「先行者優位」と言うこともあります。
新しいテクノロジーによって商品が生まれた時や、社会状況などの急激な変化があった時などに、先行者利益を手にする企業が現れやすくなります。
先行者利益を手にした企業は、市場や業界のルールや商品規格なども自分たちで決めやすくなります。
つまり、市場の拡大や成功を見て参入してくる後続の会社に対して、かなり有利な立場でビジネスを行うことができるのです。
先行者利益にはどんなものがあるか
一般に先行者利益とされるものに、どの様な内容があるか見ていきましょう。
価格競争にさらされない
それまでに無かった商品を初めて販売する、競合商品がない状態でビジネスを始める場合、ユーザー側に選択の余地がないため価格競争が発生しません。
もちろん消費者から見た「適正な価格」というものはありますが、他社との価格競争やシェアの取り合いで消耗することがないので、その分成長も大きく、市場の利益を独占できるのです。
代名詞的なポジションを得られる
まったく新しいカテゴリやコンセプトの商品で成功すると「〇〇といえば△△」という代名詞的なポジションを得ることができます。
類似した商品がないため他の商品と比較されることがなく、新しく市場を作り出し独占するため、消費者に強い印象を残すからです。
例えば、
- 家庭用ゲーム機なら「ファミコン」(任天堂)
- スマートフォンなら「iPhone」
- 家庭用の自動掃除機は「ルンバ」
- サイクロン式掃除機なら「ダイソン」
このようなイメージが一度人々の頭に残れば、その後新しい製品が出てきてもなかなか覆ることはありません。
商品名がその分野の代名詞となることは、新しい市場を作った商品だけが得られる先行者利益なのです。
商品購入の際、最初に検討してもらえる
代名詞的なポジションを得られると、ユーザーがそのカテゴリで商品を購入しようとした時に、真っ先に思い浮かべてもらうことができます。
例えば、普段はダイソンの掃除機に興味がなかったとしても、掃除機が壊れるなど買い替えのタイミングで、
「どうせならサイクロン式にしようかな」
「サイクロン式掃除機といえばやっぱりダイソンかな」
と思ってもらえるのです。もちろん検討の結果、性能や価格の面で折り合わない場合には、違う商品の検討に移っていきます。
しかし「一番に検討してもらえる」というだけで、購入の可能性はかなり大きくなります。
先行者利益はどうやったら得られるのか
新しい技術・商品・サービスを開発する
先行者利益は、新しい商品・サービスを開発して、市場そのものを新たに作り出すことで得ることができます。
しかしこれには優れた技術や、莫大な先行投資が必要ですし、失敗した場合のリスクも大きくなります。
海外で成功している例を日本に取り入れる
先行者利益を得るために、必ずしも自分で新しいものを作り出す必要はありません。
業界や職種によっては、日本の実情が海外より数年単位で遅れていることがあります。
そのような分野を探して、海外で成功しているものを日本に持ってくることで、日本における先行者利益を得る、ということも可能です。
1990年代など、アメリカでどんどんインターネットビジネスが発展していた時代には、最先端の商品やサービスを日本に持ってくることで先行者利益を得ることができました。
これをタイムマシン経営、タイムマシン方式などと呼ぶこともあります。
今ではインターネットが十分に普及し、世界中でタイムラグは少なくなっていると言われますが、それでも差がある業界はあります。
ただしそのような場合、新しい方式が広がらない他の要因があるかもしれないので、安易に最新のビジネスを持ち込もうとすることは危険です。
今後もアメリカや中国などの最新情報が、ビジネスチャンスになる可能性があります。
また最新のものを日本に持ち込むだけでなく、まだ発展途上の海外に展開することも先行者利益を得るチャンスです。
時代の変化を先読みする
先行者利益の例としてよく例えられるのが、ゴールドラッシュです。
この時、いち早く金脈を掘りあてた人たちは巨万の富を得ることができました。あとから参加しても金脈は残っておらず、成功することはどんどん難しくなっていきました。
しかし、このタイミングで巨万の富を得た人には、自身で採掘をした人たちの他にもう1パターンありました。
それは、金脈を採掘する鉱夫を相手にビジネスを始めた人たちです。
アメリカの名門・スタンフォード大学を創設したことで有名な、リーランド・スタンフォードは、ゴールドラッシュの時代に人口が増えたカリフォルニアで鉱夫相手に雑貨商を営み、財産を築きました。その後、大陸横断鉄道の1つであるセントラル・パシフィック鉄道も設立しています。
これは、金脈を発掘することで財産を築くということより、「そういう人が今後増えていくだろう」という社会状況の変化に真っ先に着目したことが先行者利益につながった例です。
時代が動く時、誰でも目が惹かれる大きな変化があるものですが、実は関連してさまざまな変化が起こっています。
その変化の中に、着目する人が少ないビジネスチャンスを見つけられれば、先行者利益を得ることができるでしょう。
後発者利益とは
先行者利益について解説してきましたが、後発者として後で参入することには何のメリットもないのかというと、そうではありません。
後発者にとっては、以下のような利益があります。
コストやリスクが削減できる
先行者利益を得るためには、新しい技術の開発や商品の開発について大きな先行投資が必要になります。
またそこまでしても成功するか、新しいものだけに想定した通りにユーザーに受け入れられるかはわからず、大きなリスクを抱えることになります。
しかし後発者として市場に参入する場合、先行者が負ったこれらのコストやリスクを同じように負担する必要はありません。
イチから技術を開発する必要はありませんし、あらかじめ市場が形成されているなら成功の規模も予想がつきます。成功や失敗などあらゆることにおいて、あらかじめ想定の上で市場に参入することができるのです。
新たなポジションを確立できる
市場がある程度できあがると、先行者の商品・サービスに対してもユーザーのニーズがカバーできていない部分がわかってきます。
そのようなニーズの多い機能について、改良した商品を出すことで市場での支持を得ることが可能です。
市場がある状態で参入する後発者は、ユーザーのニーズを分析して、自社の商品・サービスを新たなポジショニングでユーザーに見せられるのです。
大企業なら一気にシェア獲得の攻勢をかけられる
新しい商品・サービスをリリースして先行者が一定の市場を作ったとしても、その地位が永遠に揺らがないかというと、そうとは限りません。
資金力が巨大な大企業なら、後発者として市場に参入しても、広告費や開発費を投入して一気にシェアを獲得することも可能です。
最終的な市場の大きさ・成長性によって投資できる金額は変わってきますが、後から参入しても市場のトップシェアを占めることは可能です。
先行者利益と後発者利益のどちらを狙うべきか
このように、先行者利益と後発者利益には、それぞれメリットとデメリットがあります。
先行者利益
リスクが高いが、成功すれば最大の成果を得られる
後発者利益
利益は先行者に及ばないが、より安定したビジネスができる
どちらが正解、どちらを狙うべきということはありません。業界やビジネスの内容、状況によって判断をしていくことが大事です。
それぞれのメリットとデメリットを理解しておきましょう。
どんな「利益」があるのかを考えよう
先行者利益の意味を理解できると、「あの方法が儲かったから」といって簡単に飛びつくことがなくなります。
ゴールドラッシュの時のように、ブームが始まって「儲かる」と噂になるころ、すでに金脈は枯れているという例は、現代でも多いからです。
自分では先行者利益だと思っていても、すでに後発者利益が得られるかどうかを判断すべき段階だということは多いものです。
ユーザーの興味関心が変化するサイクルやプロダクトの寿命サイクルもどんどん短くなっています。
参入する市場がどのような状態なのか、誰が先行者利益を得ているのか、後発者としてどのような戦い方をするのかなど、自分自身で判断するようにしてください。