リスキリングとは?メリットや学び方を一挙公開

最近よく聞く「リスキリング(Re-skilling)」という言葉。

文字通り、スキルの学び直しを指しますが、従来のスキルアップとは意味合いが違うことはご存じでしょうか?

変化が激しい現代、リスキリングを上手に活用できるかどうかで、周りと大きく差がついてしまうのは間違いありません。

今回は、リスキリングの概要から、学び方のステップ、時代に合った学習項目などを順に紹介していきます。

最後までご覧いただければ、リスキリングとの正しい接し方が理解できますよ。

リスキリング(Re-skilling)=時代に合わせた学び直し

リスキリングとは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶことを指します。

これまでも、社会人の学び直しに対する必要性は至るところで取り上げられてきました。

しかし、リスキリングで提唱されている学び直しは従来のものとは異なり、職種や業務の大幅な変更に対応するような抜本的なスキルアップを意図しています。

その背景には、IT・AIの台頭によって既存のビジネスモデルが陳腐化するスピードが早くなっているなど、世界レベルでの変化が影響しています。

リスキリングを取り入れている先進企業事例3選

大企業を中心に、既に多くの企業がリスキリングに取り組み始めています。

ここでは、一例を紹介します。

AT&T:10万人を対象にした大規模プロジェクトを実施

アメリカの通信大手AT&Aは、比較的早くからリスキリングに取り組み始めた企業として知られています。

2013年に従業員10万人を対象とした大規模なリスキリングを実施し、プロジェクトに参加していない従業員に比べて参加した従業員の昇進率が上がるなど一定の成果が出ました。

また、会社への満足度が向上し、退職率を抑えることにも成功しています。

IBM:最新のIT技術を学べるプラットフォームを確立

IBMは、人工知能(AI)やクラウドコンピューティング、サイバーセキュリティなど、最新技術を活用したビジネスを展開するために、社員のリスキリングに力を入れています。

従業員に向けたeラーニングプラットフォーム「Your Learning」を提供してオンライン上でコースを受講できるようにするなど、学習環境を整えています。

日立製作所:研修プログラムを関係者以外にも解放

日立製作所では、全社員を対象としたリスキリングの取り組みを実施しています。グループ会社の日立アカデミーが用意した研修プログラムは、日立製作所の関係以外でも受講できるようになっています。

リスキリングと似た意味の言葉

リスキリングと似た言葉として、以下のようなキーワードが存在します。

リカレント教育

リカレントは、「循環する」「繰り返す」といった意味の言葉です。リカレント教育とは、人生において「就労」と「学び」を繰り返す教育システムを指します。

学校教育を生涯にわたって分散させようとする考え方で、社会人になっても大学に入るなどして新しい知識・スキルを身に着け、再び仕事に戻る循環を繰り返します。

リスキリングと似た概念ですが、リカレント教育は個人が主体であるのに対して、リスキリングは企業が従業員に対して学習する仕組みを整えるといった意味合いで使われることが多いです。

アンラーニング

アンラーニングとは、「学習棄却」や「学びほぐし」という意味で、これまで培ってきた知識や価値観を一度忘れ、代わりに新しい知識・スキルを身に着ける点に重きが置かれています。

過去の知識や価値観を捨てることが前提となっている点が、リスキリングとの違いです。

OJT

OJT(On-the-Job Training)とは、社内に今ある仕事を実施するうえで必要な知識・スキルを仕事をしながら身に着けてもらう考え方です。

一方、リスキリングは今後予想される新たな課題解決に必要な知識・スキルの習得に焦点が当たっている点が異なります。

アップスキリング

アップスキリングとは、現在の仕事をより広範囲または高度なレベルでこなすために必要なスキルアップのことです。例えば、web広告の運用担当者が隣接するSNS運用の知識も身に着けるといった事例が挙げられます。

対して、リスキリングは職種や業務の大幅な変更に対応するような、抜本的なスキルアップを想定しています。

先ほどのweb広告の運用担当者の例でいけば、広告運用で得られたデータを活用した商品開発のスキルを身に着ける、データアナリストに転身するなどの大きな変化を指します。

生涯学習

生涯学習は、仕事に関わる・関わらないに限らず、一生涯を通して学習することを勧める概念です。

リスキリングは、仕事に活かすスキルアップが前提になっています。

リスキリングが注目される5つの理由

至るところでリスキリングという言葉を聞くようになりましたが、その背景には以下のような理由が存在します。

①国際的なテーマになっている

事の発端は、2020年に行われた世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)での発表でした。

変化の激しい時代に対応する新たなスキルを獲得することを目的として、2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するという発表がなされたのです。

この発表をきっかけに、各国でリスキリングに対する取り組みが加熱していきました。今やリスキリングは、日本国内だけでなく、全世界的に注目を集めているテーマです。

②DXが加速している

リスキリングが注目されている背景の1つとして、DXの加速があります。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、ビジネスにおけるあらゆる仕組みに戦略的にデジタル技術を導入し、構造そのものを抜本的に再構築することを指します。

日本は、先進国の中ではDX化の取り組みが進んでおらず、それが理由で莫大な経済損失が予測される「2025年の崖」という社会問題にまで発展しています。

DX化を推進できる人材が不足しているため、リスキリングによる学び直しが国レベルで求められています。

③政治も注力している

岸田総理は所信表明演説で、リスキリングに対する支援策を公表しました。

その額は、5年で1兆円といった大規模なもので、国としてもリスキリングに対して注力しようという姿勢が伺えます。

また、上場企業を中心に、人的資本開示が義務化されるなど、国レベルでの取り組みが日進月歩で進んでいます。

④圧倒的な人材不足

日本国内に関して言えば、人口減少による人材不足もリスキリングを押し進める大きな要因の1つになっています。

今後、働き手である生産年齢人口が減ることは確実視されているため、減少する労働力を補うためには、一人一人の生産性を向上させる他ありません。

そのためには、従業員のスキルアップは必須と言えます。

⑤コロナによる働き方の変化

2020年に大流行した新型コロナウイルスは、私たちの働き方にも大きな変化をもたらしました。既存のビジネスモデルが通用しなくなり、全く新しい事業体にチャレンジせざるを得なくなった業態も数多く存在します。

その結果、全世界的に見ても、多くの失業者を生み出すことになりました。

今後も、コロナショックに類似するような世界的な大変革が起こりうる可能性は十分にあります。世の中の変化に対応していくためには、絶えず変化し続けるしかありません。

リスキリングを取り入れるメリット

次に、リスキリングを取り入れるメリットを、従業員(個人)と会社のそれぞれの視点でまとめていきます。

従業員(個人)

従業員(個人)のメリットは、以下の通りです。

スキルが身に付き市場価値が高まる

最大のメリットは、スキルが身に付き市場価値が高まることです。汎用性が高い知識・スキルを身に着けられれば、より高い評価をしてくれる会社に転職することも可能です。

社内で力を発揮するにしても、出来る業務範囲が広がり、今までより高い成果を上げられるようになれば評価が高まります。

会社

会社のメリットは、以下の通りです。

生産性の向上

個々の従業員の業務レベルが上がれば、同じ時間でもより多くの成果を上げられ、生産性の向上につながります。

会社への満足度向上

従業員がリスキリングに取り組みやすい環境を整えてあげることで、「スキルアップを手助けしてくれる良い会社」と認識してもらえ、帰属意識が以前にも増して強くなります。

優秀な人材の流出を防ぐ一手として、リスキリングに取り組む環境整備は一定の効果があると言えます。

イノベーションが起きやすい

リスキリングによって新しい知識やスキルを従業員が得ることで、イノベーションが起きやすくなります。

採用コストの削減

リスキリングに積極的に取り組んでいることをアピールできれば、求職者から選んでもらえる可能性は高くなります。

良いイメージが先行すれば採用にかかる総コストが削減されるだけでなく、優秀な人材が集まりやすくなるというメリットもあります。

社内文化が維持される

リスキリングによって新しい価値観がもたらされたとしても、元々社内に根付いていた文化が消滅するわけではありません。

組織として残すべき良い文化だけを残し、変えるべき部分は抜本的に変えていければ、より一層、他社との差別化を図れます。

最もコスパが良いリスキリングの対象は?

一言にリスキリングと言っても、何を学習するかは人によって大きく分かれます。

ここでは、数ある学習対象の中でも、特に今後役立つ可能性が高い分野をピックアップしてみます。

なお、個人が置かれた状況や今後見据えているキャリアによって学習効果は大きく異なるため、あくまで参考としてご覧ください。

IT/DX/AIスキル

リスキリングの学習対象としては、最も効果が高いと言える分野の1つです。今後、今以上に各業界におけるIT技術の導入は加速していくからです。

現在従事している専門業務と組み合わせることで相乗効果が生まれます。

語学スキル

語学スキルは今も昔も変わらない、スキルアップの定番です。ただし、その重要性はより一層高まっていると言えます。

というのも、人口減少に伴い市場規模が小さくなる日本だけでなく、成長している国外の市場に注目する企業が増えるのは自然な流れだからです。

国によって主要言語や商習慣が大きく異なるため、どの言語を・どんな目的で・どの程度扱えるようになりたいかを明確にしてから学習すると良いでしょう。

心理学

IT技術が台頭している現代だからこそ、人の心に寄り添える人材の価値が際立ちます。

組織で部下をまとめるマネジメント人材、人の心に深く踏み込むカウンセラー、お客様の真の悩みを掘り下げられる営業マンなど、機械が代替できないスキルを持っている人材の価値は今後も上がり続けます。

リスキリングを取り入れる4ステップ

この章では、リスキリングの導入にあたって必要な4ステップを取り上げます。
目的やゴールを明確にする
なぜリスキリングをする必要があるのか、目的やゴールを明確にする必要があります。

目的がないままやみくもにスキル開発に臨んだとしても、お金や時間の無駄になってしまう確率が高いからです。

例えば、

  • 停滞している市場から新たな市場へ展開するアイデアが必要
  • DXに対応できる社内人材が必要なので先行投資として行う
  • 先行きが見えない時代に対抗するため幹部教育として取り入れたい

など、理由は様々かと思います。

流行に乗って早く着手したい気持ちにいったんブレーキをかけて、冷静に判断する必要があります。

取り組む教材を決める

目的・ゴールが決まったら、次に取り組む教材を決めます。

量や数が多ければ良いというわけではなく、あくまでも目的・ゴールを達成するために必要だからという視点で、冷静に選ぶ必要があります。

くれぐれも、「この分野だったら、あの教材が一番有名だから」といった単調な理由で選択しないようにしましょう。

特に部署全体など大人数で取り組む場合、この教材選定は非常に重要なパートとなります。

学習する

教材が決まったら学習環境を整備して、さっそく学習を進めていきます。

マネジメント側の気持ちとしては、個々人に学習ペースは決めて欲しいところかと思いますが、会社で取り組む際には「うるさく・細かく・しつこく」進捗をチェックする辛抱強さも必要です。

実践に活かす

リスキリングは学習することが目的ではなく、あくまでもビジネスの現場に活かすことが目的です。

そのため、学んで終わりではなく、それをどのように現場に活かしていくのかまで落とし込む必要があります。

この点も、従業員の個々人の解釈に任せるのではなく、会社として求めていることを先に伝えておくと認識の齟齬が無くなります。

リスキリングを進めるうえでの注意点

次に、リスキリングを進めるにあたっての注意点をいくつか列挙します。

会社と上手く連携する

従業員として働いている場合、会社と上手く連携できないかは検討してみると良いでしょう。本格的に能力開発に取り組もうと思えば、内容にもよりますがそれなりにお金が必要になります。

もちろん、会社の目指す方向性と合致している必要はありますが、「こんな事を学んでみたい」という声は積極的に挙げた方が良いです。

やみくもに教材に手を出さない

多くの人がやってしまいがちですが、やみくもに教材に手を出すのは危険です。

教材によって言っていることが違うケースがあるため、その度に確認が必要になり、学習効果が著しく下がるからです。受験勉強と同じで、成果を出す人はこれと決めたものを一心不乱にやり続けます。

継続しやすい環境作りを意識する

学習を継続しやすい環境作りも非常に重要です。

スキルアップは一朝一夕で出来るものではなく、何を学ぶにしてもそれなりの時間がかかります。だからこそ、継続的に学習する仕組みがないと、一定の効果を得られません。

例えば、

  • 就業時間の中で、リスキリングに使える時間帯を確保する
  • リスキリングの取り組み有無を評価項目の1つに入れる

といった具合に、強制的に学習が進むインフラ整備が重要です。

有名な話で、Google社が取り入れている「20%ルール」というものがあります。

これは、業務時間の20%を本業とは関係ない自分が好きな事をする時間として使って良いという仕組みです。ちなみに、Gmailなどの有名なサービスも、この時間に出たアイデアから生まれたことで知られています。

外部リソースも上手く活用する

リスキリングに取り組むうえで、教材の手配などは積極的に外部リソースを活用していきましょう。

自社で作ればコストは抑えられるかもしれませんが、その分作成の時間がかかりますし、必ずしもクオリティが高いものができるとは限りません。

既に他社が作成した良質な教材があれば、活用しない手はないでしょう。

リスキリングで企業も個人も次のステージへ

リスキリングは、変化の早い現代に必須の「大人の学び直し」です。

従来のスキルアップとは視点を変えて、今後予想される時代の移り変わりを意識して、企業にとって最も取り組むべき課題に合わせた学習が必要とされています。

とは言え、焦って始めたところで空回りするだけです。

ぜひ、本記事でも紹介した下記のステップに沿って、価値あるリスキリングを押し進めていってください。

  • 目的やゴールを明確にする
  • 取り組む教材を決める
  • 学習する
  • 実践に活かす

リスキリングの成功が、企業も個人も次のステージへと導いてくれるはずです。