転職活動の結果、新しい仕事が決まって現在の仕事を辞めることになった。
そんな時に必要になるのが退職願や退職届です。退職する会社に対して最後に行う手続きとも言えますが、実はこの手続きは転職後の成果にも大きく影響します。
「どうせ辞める会社だから」と適当に行うと、後から大きなしっぺ返しを受ける可能性もあるのです。
この記事では、円満に退社して新しい仕事で活躍するために役立つ、退職届の基本的な書き方・提出のマナーについて解説します。
目次
退職願・退職届の目的は「トラブル防止」
仕事を辞めるとなると、退職願や退職届を提出するものと一般的に思われています。
しかし実は、退職願や退職届は法律上必ず提出しなければいけないものではありません。法律的には退職の意思を「口頭で伝える」だけでも意思表示として有効だからです。
ただ実際には、退職の意思表示を口頭で行ったあとに「言った言わない」のトラブルになる可能性があります。そうならないために、いつ・どんな形で退職の意思を表示したのかを明らかにしておく方がよく、トラブルを防ぐためにも退職願や退職届が必要とされているのです。
実際には多くの企業において、就業規則などで「退職の際は退職届を提出すること」などがルールとして規定されています。
退職時のマナーは転職後のキャリアアップにも影響
苦労の末、願っていた企業に転職が決まったら、転職後の生活に心が向いてしまいがちです。転職の理由が現在の会社への不満などであった場合、一刻も早く新しい会社で働きたいと思うかもしれません。
しかし転職する際には、現在働く会社に対しても最後まで誠意をもって手続きや引継ぎを行い、出来るだけ円満に退職することが大切です。
というのも世間は意外と狭いものです。関係ない仕事に転職したと思っても、転職先と現在の会社がいつどんな関係を持つかわかりません。辞める会社が転職先のお客様になる可能性もあります。
情報がどこかから耳に入った場合、退職時にきちんと引継ぎや手続きを行い辞めていった人と、「どうせもう辞める会社だから」と仕事を業務をほったらかして辞めた人では大きく評価が分かれてしまいます。
せっかく新しい会社で頑張っていても、いつか話が耳に入ったタイミングで「そんな人だったのか」と思われてしまう可能性もあるのです。
転職は新しい会社に移ったら終わりではありません。
転職先で、今の会社では得られないチャンスをつかんだり、評価を得たりすることが目的のはずです。
新しい会社で活躍するためにも、少しでも将来的に足を引っ張るような要素を残さない方がよく、 そのためにも退職手続きは可能な限り、ルールに則って最後まで誠実に行いましょう。
一般的に会社員は「辞表」を出さない
ここからは具体的に、退職の手続きや必要な手段について解説していきます。
最初に用語の整理なのですが、退職に関連してよく出てくる言葉に「退職願」「退職届」「辞表」があります。それぞれの意味を混同している人もいますが、明確な違いがあるので使い方に注意しましょう。
一般のサラリーマンが「辞表」を提出したりすると、「一般常識がない」と思われるかもしれません。
①合意による解除を申し出る「退職願」
退職願とは、会社に対し「合意による労働契約の解除を願い出るための書類」です。
退職を「願い出る」ための書類なので、会社の承諾によって初めて労働解約が解除となります。そのため、会社が退職を承諾する前であれば、退職願は労働者側から撤回可能と考えられます。
※最高裁判所昭和62年9月18日判決
②自分の退職を通告する「退職届」
退職届とは、「会社に合意があるかを問わず、自分の退職を通告するための書類」です。
退職の意思表示を一方的に行うための書類なので、会社の同意は必要なく、その代わり退職の意思表示についても撤回が認められない可能性があります。
このように書くと退職届はかなり一方的な行動に思えますが、多くの場合口頭などで直属の上司に退職の相談をして、退職の日程を調整し意思表示のために日付の入った退職届を提出するという流れになります。
③役職を辞することをあらわす「辞表」
辞表とは、社長や取締役などの高い役職についている人が、その役職を辞する時に提出する書類です。
「辞表」を「会社を辞める時に書く書類」と認識していると、一般のサラリーマンが辞表を出すなどの間違いがおきます。一般常識がないと思われる可能性があるので注意して、言葉を使い分けましょう。
公務員も立場を退職をする時に辞表を提出しますが、これは一般的な退職届と同じ意味を持ちます。
退職を伝えるのにベストなタイミングとは?
転職活動をしていて、新しい会社が決まったら、出来るだけ早く会社にその旨を伝えるべきでしょう。早く情報がもらえればその分、会社も引継ぎの時間や人員の補充のために期間を取ることができます。
就業規則の規定を守るのが基本
まず、会社の就業規則に「退職」の項目がないか確認しましょう。
多くの会社では就業規則において「退職の場合には〇か月前に退職願いを提出すること」などのルールがあるはずです。
これは会社として、「このタイミングまでに教えて欲しい」と言う基準なので、可能な限り対応しましょう。転職後の入社日を調整するためにも、転職活動を始める前に確認しておくほうがいいでしょう。
一般的には1~2か月前の提出が規定されていることが多いようです。
双方の利益を調整するのも転職者の役目
現職には2か月前までに退職を通告する必要があり、新しく決まった会社が1か月しか入社を待ってくれないなどは困りますが、その場合も以下のような代案を提案するなど、双方に対して誠実に対応することが必要です。
- 引継ぎに必要な書類は全部作成しておく
- 退職後も万が一の時には連絡を取れるようにしておく
転職先だけでなく、退職する企業に対しても最後まで誠実に対応することが、転職先の評価アップにつながるでしょう。
どうしてもダメなら、2週間前の通告で労働契約は終了できる
とはいえ、最近は人手不足で社員の退職を認めようとせず、退職願・退職届の受け取りを拒否し、対話に応じない企業もあるようです。
どうしても円満に退職できそうにない、話に応じてもらえないという場合には、民法に「労働者は一方的な意思表示によって一定期間の後に会社を退職できる」(民法第627条)という規定があります。
雇用の期間に定めのない正社員の場合、労働契約の解約の申し入れ(=退職届の提出)日から2週間を待って契約を終了させることができます。
この場合の退職届の提出は内容証明郵便で行うといいでしょう。
ただし先に言ったように、退職時のトラブルがいつどんな形で新しい仕事の関係者の耳に入るかわかりませんので、円満に退職するための努力をした上での本当に最終の手段と考えてください。
退職願・退職届の書式は決まっている
退職届の内容に法律で定められたようなルールはないのですが、慣習として実質的に内容は固定されています。よって、退職届に何を書けばいいのか?と迷う必要はありません。
下記のテンプレートを利用して、氏名や会社名、日付を変更して作成すればOKです。
退職理由については、実際には親の介護のためやキャリアアップのための転職だとか様々な事情があると思いますが、自己都合の場合にはすべて「一身上の都合により」と書けば問題ありません。
先ほども言ったように、退職届の意味としては労働者が自ら退職について意思表示をしたという証明が最も大きいものだからです。
会社からすると、のちのち労働者が退職は不当な解雇によるものだと訴訟を起こした場合に、退職届をもって退職者の意思であると証明出来ればいいので理由をとくに明記する必要はありません。
逆に考えると、会社都合での退職の場合は内容が違ってきますので注意してください。
退職を認めてもらえない時にやるべき3つのポイント
退職願を作成して直属の上司に提出したものの、「いなくなられては困る」と慰留されることもあるでしょう。そんな時、転職に納得してもらうためにやるべきことを3つお伝えします。
退職を前提に話を進める
大切なのは、退職を「会社に許可してもらう」のではなく、「退職を決めたので、どう引き継げば一番会社のためになるか」について話し合いたいというスタンスで臨むことです。
例えば、「退職させていただけないでしょうか」という話し方をした場合、特にあなたが優秀で活躍している人材なら、「もしかしたら引き止められるかも」と考えて給与や待遇についてさまざまな交渉をしてくるかもしれません。
しかし、あなたがすでに退職を決めている場合は時間の無駄ですし、会社にとっても無駄な労力になってしまいます。残る可能性があるという言い方はしない方がお互いのためです。
良い方法としては、「次の会社への入社日がもう決まっている」としっかりと伝えることです。その上で今、自分が抱えている仕事については、会社のためにもしっかり引き継ぎをしてから退社したいということを伝えましょう。
新しい会社でやりたいことを伝える
これは少し内容に注意をしなければいけないのですが、「新しい会社でこういうことをやることになった」ということを、エネルギーいっぱいに伝えることも円満に退社をするコツです。
注意すべき点は、その内容が「今の会社にいては決してできない」内容でなければいけないということです。
今の会社でも実現可能なことを、転職してやりたい事として伝えてしまうと「それはうちの会社でもできる。うちの会社でやってくれないか」と引き止められてしまいますので内容に注意しましょう。
しかしこれで納得をしてくれれば、その上司は転職後もあなたの応援をしてくれるかもしれません。
感謝の気持ちを前向きに伝える
転職を希望するということは、今の会社に対して何か不満や思うところがあるのかもしれません。しかしそのような気持ちは、転職の場面では最後まで表に出さない方が良いでしょう。
転職は自身のキャリアアップ、あるいはやってみたいことのためにするのであって、不満を持って転職するのではない、ということを会社に対して伝えましょう。
キャリアやスキルをアップ、その会社にいたからできた経験などもあると思いますので、素直に感謝を伝えるようといいでしょう。
転職に関するよくあるトラブルと対処法
事情が変わったので退職届を撤回したい!
先に言ったように、原則、退職届を労働者の側から撤回することはできません。
ただし、もちろん労働者と会社側で「なかったことにする」合意ができた場合は、そのように処理しても特に問題ないでしょう。
ただ、合意により退職が撤回できても「辞めようとした」ということで、その後不利益をこうむる可能性があります。例えば「辞める可能性があるなら」と、重要なポジションを任せられないなどの影響が出るかもしれません。
退職届はそれだけ効力のある重要な書類であるということを自覚して、いっときの気持ちで提出をしてしまわないように注意が必要です。
上司が退職願を受け取ってくれない…
退職届は直属の上司に提出するのが一般的なルールです。しかし、その上司が受け取ってくれないのであれば、組織のピラミッドにおけるもう1つ上の上司に直属の上司が退職届を受け取ってくれない旨とともに、退職の意思を伝えましょう。
それでも難しい場合は、さらに上…と組織のピラミッドを上るようにします。
直属の上司との折り合いが悪く退職を考えている場合は、なかなか本人に退職を伝えることは難しいと思います。しかしその場合も、まずは直属の上司に退職願を提出してください。
さまざまな事情があると思いますが、こちらはあくまでも手続きの順序やルールを守って対応することが重要です。
転職先を元の会社に伝える必要はあるのか?
引き継ぎ後の業務の内容について、転職後も確認や相談をしたいという要望もあると思うので、個人的な連絡方法を残しておくことは必要でしょう。
ただし転職先の企業名や部署名などについては、必ずしも退職する会社に知らせる必要はありません。
どうしても退職を承認してもらえません…
最近では会社を辞めることができない人向けに「退職代行サービス」が繁盛するなど、退職を承認してもらえない・辞めさせてもらえないということによる深刻なトラブルも多いようです。
この場合は、先に言ったように内容証明郵便で退職届を郵送し、14日の経過を待って労働契約を終了するという方法しかないでしょう。
しかし退職後も源泉徴収票を交付してもらうなど、実は元の会社に連絡する機会はたくさんあります。手続きをスムーズに行う為にも、このような手段は本当に最終手段と考えておく方がいいでしょう。
要なのです。双方が折り合える着地点を諦めずに探り、それを実行していくのも転職者の役割といえます。
退職時の振舞いで評価が決まる
退職願・退職届の意味や書き方から、提出のタイミングや、トラブル対応について解説してきました。
転職が決まって元の会社を退職する場合、転職者はどうしても新しく働く会社での明るい未来に意識が行きがちです。突然退職を決め、退職日までに有休を消化してほとんど引継ぎをしないまま会社を去ってしまう人もいます。
もちろん有休を消化していく権利はあるでしょう。ただ、最後まで業務を全うして会社を去る人と、もう関係ないとばかり、後に残る人に迷惑や負担をかけても平気な人では、残る印象がまったく違います。
場合によっては、転職後に前職の会社や仲間と関わることになる可能性もあり、その時に悪い印象や評判が残っていると仕事に支障が出る可能性があります。
退職までの経緯によっては会社に対して思うところがあるという人も多いでしょう。しかし、新しい会社で活躍するためにも、転職前には最後まで責任を持って業務を行い、やり切った自分で新しい環境にチャレンジするようにしてください。