給料日は働く上での大きな楽しみですよね。しかし給与明細を見てみると、支給されるはずの給与全額からさまざまな金額が天引きされて、実際に受け取れるのは額面の80%以下だったりします。
この天引きされている金額ってなんだろう。これさえなければもっと余裕のある暮らしができるのに…と思う人は多いでしょう。
私たちは毎月、一体何のお金を払っているのでしょうか。この記事では、そんな会社員の月給から毎月天引きされている内容について解説します。
「天引き」とは
月給が250,000円としても、給与総額がそのまま銀行口座に入るわけではありません。
総額から労働者が各種支払うべき金額が控除され、残った金額がいわゆる「手取り」となって口座に入金されるのです。
これらの内容は給与明細で確認することができますが、それぞれの数字の意味や計算方法をしっかり理解していない人も多いです。
天引きされる内容とは
健康保険料
健康保険とは労働者、またはその被扶養者について業務災害以外の病気やケガ、出産などについて保険給付を行うものです。
健康保険に加入していると、病院にかかる時に健康保険証を提示することで、医療費の3割負担で診察してもらえます。
つまりあなたが窓口で3,000円支払ったとすると、本当の医療費は10,000円かかっており、差額を健康保険が出してくれているということです。
健康保険料の金額は加入する健康保険によっても違いますが、一般的な事業者が加入する協会けんぽでは、月額の給与から算出した標準報酬月額に対して9.87%を事業主と折半することになっています。
たとえば東京において毎月の額面給与が250,000円(標準報酬月額260,000円)なら、12,831円を給与から天引きされることになります。※2020年5月現在
厚生年金保険料
厚生年金保険とは労働者の老齢、障害、または死亡について保険給付を行い、労働者と遺族の生活の安定・福祉の向上を目的とした保険です。
厚生年金加入者は、一定の年齢に達した時に老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ることができますが、この年齢は現在65歳以上となるよう調整されています。
厚生年金保険料の金額は月額の給与から算出した標準報酬月額に対して18.3%を事業主と折半することになっています。
たとえば東京において毎月の額面給与が250,000円(標準報酬月額260,000円)なら、23,790円が給与から天引きされることになります。※2020年5月現在
雇用保険料
雇用保険とはいわゆる失業保険です。万一、労働者が失業した時に給付を行ったり、またスキルアップのために勉強する時に補助を受けたりすることができます。
雇用保険はその月の総賃金額に対して、3/1,000を労働者が負担、6/1,000を事業主が負担します。
給与の額面が250,000円なら、750円が給与から天引きされることになります。この時、事業主も1,500円を負担し合わせて納付します。※2020年5月現在
所得税
本来所得税は1年が終わり、確定申告によって年間の所得額を決定しないと正確に計算できません。
しかし労働者が個々に確定申告をする手間を省き、国としても確実に所得税を徴収するために源泉徴収という形で毎月の給与から少しずつ支払っています。
12月に事業主によって行われる「年末調整」はこれを精算するためのもので、その年に払った生命保険料など控除対象の金額について報告して所得税の額を決定し、払った源泉徴収の額が本来の額より多ければ還付が、少なければ徴収が12月の給与で行われます。
源泉徴収の額については、その月の社会保険料などを控除したあとの給与金額に対応して決められています。
給与の額面が250,000円なら、健康保険、厚生年金、雇用保険を合わせて37,371円を引いた、212,629円に対して給与所得の源泉徴収税額表(月額表)より5,200円が所得税として天引きされます。(扶養親族が0人の場合)
住民税
住民税とは、都道府県民税と市町村民税のことで、その年の1月1日に住民票があった市区町村で課税されます。
住民税の金額は、前年の所得に応じて計算される所得割と、一律に課される均等割を合算した額となります。
社会人2年目に手取りが減るのはなぜ?
ここで問題になるのが住民税です。
住民税は、前年の所得に対して計算されるので、社会人になった最初の年には支払う必要がありません。(学生時代にアルバイトなどで相応の所得が無い限り)
しかし社会人2年目になると、前年の所得(新卒入社なら4月~12月の給与から計算された所得)に対して住民税がかかり、その天引きが始まるのが6月支払い分給与からなのです。
住民税の額は市町村や扶養している家族などによっても違いますが、前年の年収が300万円の場合、翌年の住民税はだいたい12万円になります。(生命保険料控除など各種控除がなかった場合)
これを12分割したものが給与から天引きされるので、月の手取りとしては、5月から6月にかけて1万円程度少なくなってしまうのです。
よって、社会人1年目から2年目にかけて1万円以上の昇給をしていない場合、6月からの手取りは初年度を下回ってしまうことになります。
毎月の給与でカツカツな生活を送っている人に取っては、手取りが1万円減るというのは大きな出来事だと思います。あらかじめ給与内での余裕のあるくらしを心掛けておきましょう。
天引きされない方がお得?
給与の天引きを受けるのは、雇用契約をしている社員の場合に限られます。雇用契約のある社員の場合、事業主には社会保険料を負担する義務、所得税や住民税を従業員に代わって徴収し納める義務があるからです。
対して、雇用契約のない契約の場合は基本的にこれらの義務はありません。(所得税に関しては一部徴収の決まりがあります)
ここまで見てみてわかるように、社会保険料については従業員の給与から徴収する分に、事業主が負担する分を加えて納めることになっており、事業主の負担の方が大きくなります。
そのため一部企業では従業員と雇用契約ではなく、個人事業主相手の請負契約(業務委託契約)を結ぶことによって、健康保険や厚生年金、雇用保険等の保険料の負担を避けようとするケースがあります。
※実質的に、従業員として業務の遂行の指示や管理を会社から受ける請負契約は「偽装請負」であり違法です。
この場合、給与から社会保険料の天引きがされないので、手取り額としてはより金額が大きくなるのです。
しかしこの請負契約では、労働基準法を始めとする労働関係法令が適用されません。
残業手当、年次有給休暇、最低賃金などの規定は適用されず、契約内容で折り合えなければ契約打ち切りとして実質的に解雇することも可能です。
また給与から引かれない社会保険料や住民税については自分で管理して納める必要があります。
- 国民健康保険への加入
- 国民年金への加入
- 住民税の納付
- 確定申告
これらの手続きを自分自身で行うには手間もかかりますし、将来の年金の額なども大きく代わってきます。
個人事業主には、自分で自分の仕事をコントロールできる、技能を活かせる、顧客や仕事を選べる、経費が計上できるなどのメリットもありますが、働き方を考える際には目先の収入にとらわれず、社会保障や手続きにかかるコストなども考える必要があります。
月給250,000円の手取りは約20万円
このように計算していくと、額面で月給250,000円、2年目から毎月住民税10,000円を特別徴収(天引き)される場合の手取りは197,429円となります。
天引き分についてはあまり意識をしていない人も多いですが、意識しなくても健康や老齢、失業などの危機に対して毎月準備をしているということがわかります。
社会保険制度を理解していると、いざという時に使える制度が無いかなどを考えることができます。給与から天引きされている金額の意味をしっかり理解しておきましょう。