新しい商品やサービスを売り出す時、ユーザーや市場にどう受け入れられるかは大事です。
しかしそれが新しいテクノロジーを活用したものの場合など、類似の前例がなく、市場の反応に対して判断がしにくくなります。
そんな時手掛かりになるのが「イノベーター理論」です。
この記事では、イノベーター理論の基本的な意味や考え方から効果的なアプローチ方法まで解説します。
目次
イノベーター理論とは
イノベーター理論はアメリカの社会学者であるエベレット・M・ロジャース氏が提唱した理論であり、消費者を時間軸とニーズによって5つのカテゴリーに分ける考え方です。
主に新しいサービスを市場に出す際、商品が広がっていく各段階でターゲットにあったプロモーション方法を選定するために役立ちます。
イノベーター(革新者)
イノベーターは市場の中でもごく少数派の、最新技術を求める人たちを指します。
最新テクノロジーに対する興味が非常に高く、常日頃から積極的に最新情報を収集している人たちです。
アーリーアダプター(初期採用者)
アーリーアダプターは、イノベーターまではいかないものの、目新しい商品を人より早く使ってみたいと考えている人たちです。
流行の最先端を行きたい気持ちが強いので、SNSやブログなどで自分の体験をシェアして商品の情報を広めます。
アーリーマジョリティ(前期追随者)
アーリーマジョリティとは、アーリーアダプターやテレビなどのメディアから商品の情報を入手して商品を購入する人たちです。
新しい・流行などの要素に無頓着というわけではないのですが、どちらかというと商品の品質の確かさや安心感を求める、安定志向な人たちです。
レイトマジョリティ(後期追随者)
レイトマジョリティは新しいかどうかにはあまり頓着しません。
新しい商品が十分に世間に広まり、「そろそろ買わないとまずいかな」という段階になるまで、なかなか新しい商品を購入しようとしない人たちです。
ラガード(遅滞者)
ラガードは新しいものに全く興味がないので、「もう買うしかない」という段階になってようやく商品を購入します。
例えば、アナログテレビのサービスが完全終了する時になって、ようやくデジタルテレビを購入する人たちです。
各カテゴリーの割合はおおよそ決まっている
イノベーター理論で興味深い点としては、
- イノベーター 2.5%
- アーリーアダプター 13.5%
- アーリーマジョリティ 34%
- レイトマジョリティ 34%
- ラガード 16%
というように、市場における各分類の割合がおおよそ決まっていることです。
つまり、仮に市場全体=100%が計算できれば、現在の市場がどの段階にあるのか予想できるのです。
例えば、「想定している市場規模の18%程度なので、アーリーマジョリティに広がっている」というような考え方ができるということです。
この考えにより、
- 今どの層をメインターゲットに据えるべきか
- 最適なプロモーション方法は何か
などを考えることができるのです。
普及率16%の論理とは
イノベーター理論の分類の中で、最初期のイノベーターは商品の新しさそのものに価値を感じ、ベネフィットをあまり重視しません。
しかしアーリーアダプターは新しいベネフィットにも注目し、自分が得たものをSNSやブログなどのネットワークを通じて多くの人に伝えてくれます。
イノベーターとアーリーアダプターは合わせても市場全体の16%しかありません。
しかしアーリーアダプターに製品が普及すれば、その後商品の情報が広がり、爆発的に購入者が増える可能性があります。
この点から、普及率16%を超えられるかどうかが、その後の製品の成功にとって重要だとして、ロジャース氏は「普及率16%の論理」を提唱しました。
キャズム理論とは
対して、マーケティングコンサルタントのジェフリー・A・ムーア氏が提唱したのが、「キャズム理論」です。キャズムとは「溝」という意味です。
キャズム理論では、アーリーアダプターまでの2グループを「初期市場」、アーリーマジョリティからの3グループを「メインストリーム市場」と考えますが、実はこの2つでは、消費者が商品に求めるニーズが大きく異なっています。
初期市場は「新しさ」を重視するのに対し、メインストリーム市場では「安心感」が重要視されるからです。
ニーズの違いによってこの2つの層の間にはキャズム(溝)が生まれ、それを超えられなかった商品はメインストリーム市場に広がることなく消えていくというのが「キャズム理論」の考え方です。
このキャズムを超えるためには、アーリーアダプターにアプローチするだけでなく、メインストリーム市場のユーザーに安心感を与えるための施策が必要になります。
例えば、
- 人気のインフルエンサーに商品をレビューしてもらう
- 商品を購入した人の良いレビューを集める
などが、情報の伝達とともに安心感を高められるので効果的です。
アーリーアダプターへの普及を重視する「普及率16%の論理」と、
溝を超えるためにメインストリーム市場へのアプローチを重視する「キャズム理論」。
どちらが正しいということはありませんが、それぞれの層のニーズと違いを理解して、ユーザーに合わせた訴求を行うことが、着実に新商品を市場へ浸透させるポイントなのです。
効果的なアプローチ方法まとめ
イノベーターには「新しさ」
イノベーターは新しいものに敏感なので、新しい情報を得るために最新テクノロジーに関する情報をSNSやウェブサイトから随時入手しています。
テック系のサイトに商品紹介コンテンツを掲載するなどすると直接情報を伝えることができます。
アーリーアダプターには「伝えやすさ」
新しいものから自分自身がベネフィットを実感したいという思いと同時に「人に広めたい」という思いも大きい層です。
彼らが情報を広めやすいように、商品の特徴や使い方をわかりやすく伝える工夫をすると効果的です。
アーリーマジョリティには「安心感」
アーリーマジョリティは、アーリーアダプターやメディアからの情報に感化されやすい層です。
またここで、主なニーズが「新しさ」から「安心感」に変化するので、直接製品の情報を伝えるよりも、インフルエンサーやSNS、メディアなど信頼のある媒体を通して情報を届ける方が効果的です。
レイトマジョリティには「危機感」
レイトマジョリティに対しては、「これを買わないと時代に取り残される」という一種の危機感を伝えることが効果的です。
いかに多くの人が使っているか、社会的にそれが当たり前のことになっているか、どれだけの実績があるかという情報によって、なかなか行動しないレイトマジョリティに行動を促すことができます。
ラガードに積極的な施策は「無意味」
ラガードは新しいものにほとんど興味がなく、アプローチを行っても成果は出にくいでしょう。
この層に対して、積極的にマーケティングをするのは無意味になる可能性が高いです。
ビジネスを見る1つの視点として有効な方法
イノベーター理論を使うことで、
- 競合の主力商品についても同様に分析できる
- 新製品の事業を継続するべきか撤退するべきか判断しやすくなる
などさらに大きなビジネスの判断材料とすることも可能です。
イノベーター理論は、このように市場の状態を知るための方法として役立ちます。
新しいテクノロジーを使った商品がどのように市場に浸透していくのか、市場を作り出していくのか、
- スマートフォン市場を作ったAppleのiPhone
- すでに成熟していた洗濯機市場でシェアを広げるドラム式洗濯機
など実際の製品について考えてみると、変遷が実感できるのではないでしょうか。